「ちゃんと準備して提案したのに、社長に却下された」 そういう経験、ありませんか? 資料を作り込み、データを集め、論理を整えて臨んだ会議。なのに社長の反応は薄く、「もう少し考えてみよう」「今は時期じゃない」で終わってしまう。 問題は、提案の内容ではないかもしれません。 提案が通る人と通らない人の差は、多くの場合「会議の場で何を言うか」ではなく、「会議の前に何をしているか」にあります。 この記事では、提案を通すための「根回し」の技術を整理します。
根回しは「ずるい」のか
「根回し」という言葉に、ネガティブなイメージを持つ人もいます。「正々堂々と議論すべきだ」「裏工作はしたくない」という感覚です。 しかし、根回しの本質は裏工作ではありません。 「相手が判断しやすい状態を、事前に整えること」です。 人は、突然提示された情報を即座に判断するのが苦手です。特に社長のような意思決定者は、「知らないことを決めさせられる」ことへの抵抗感が強い。根回しは、その抵抗感を事前に取り除く行為です。
なぜ根回しが必要なのか
中小企業の社長には、いくつかの共通した判断パターンがあります。 自分が把握していないことへの警戒心が強い。突然「こうしましょう」と言われると、「なぜ自分は知らなかったのか」という不安が反射的に出ます。 感情と論理が混在する。データが正しくても、「なんか違う」という感覚で却下されることがあります。論理だけでは動かない場面があります。 「自分で決めた」という感覚を大切にする。提案を「通す」のではなく、社長が「自分でそう決めた」と感じられる形にすることが、長続きする合意を生みます。 根回しは、これらのパターンを踏まえた上で、提案が自然に受け入れられる土台を作る作業です。
根回しの4つのステップ
① 社長の「判断軸」を事前に確認する
正式な提案の前に、社長と雑談や短い会話の中で、関連するテーマについての考えを聞いておきます。 「最近、〇〇についてどう思われますか?」「業界では△△という動きがありますが、社長はどう見ていますか?」 これは情報収集であると同時に、社長の頭の中に「このテーマ」を先に置く作業でもあります。提案の場で初めてそのテーマに触れるより、「ああ、あの話の続きか」と感じてもらえる方が、格段に受け入れられやすくなります。
② 「味方」を先に作る
社長の周囲で影響力を持っている人——古参の幹部、社長が信頼している外部の人、家族——こうした人たちが「いい話だと思う」と言っているかどうかは、社長の判断に影響します。 正式提案の前に、信頼できる関係者に内容を話しておく。「こういうことを考えているんですが、どう思いますか?」と聞くことで、その人が自然に社長へ話を振ってくれることもあります。
③ 「懸念」を先に潰しておく
社長が「ノー」と言うときの理由は、だいたいパターンがあります。「コストがかかる」「リスクが高い」「今は時期じゃない」「現場が対応できるか」——。 これらを事前に予測し、答えを用意しておく。さらに一歩進んで、事前に社長へ「この件、一つ懸念があって……」と先に出してしまうことも有効です。先に懸念を出すことで、「この人はリスクも見えている」という信頼感が生まれます。
④ 「小さなYes」を積み重ねる
一度の提案で大きな判断を求めるのではなく、段階的に合意を積み上げていく方法です。 「まず現状の課題について共有させてください」→「方向性だけ確認させてください」→「具体的な案を持ってきてもいいですか?」——このように小さなステップで進めると、最終的な判断のハードルが下がります。 人は一度「Yes」と言ったことに一貫性を保とうとする心理があります。小さなYesの積み重ねが、大きな判断への道を作ります。
会議の場でやるべきこと
根回しが十分にできていれば、会議の場はほぼ「確認と承認」の場になります。それでも、場での振る舞いにポイントがあります。 結論から入る。背景や経緯から話し始めると、社長は「で、何が言いたいのか」とイライラします。「〇〇を提案します」から始めてください。 選択肢を2〜3つ用意する。「これしかない」という提案より、「A・B・Cという選択肢があります。私はAを推奨します」という形の方が、社長は「自分で選んだ」という感覚を持てます。 社長の言葉を使う。事前に確認した社長の判断軸や言葉を、提案の中に意識的に織り込みます。「社長がおっしゃっていた〇〇という考え方を踏まえると……」という一言が、安心感につながります。
根回しに時間をかけすぎない
根回しは重要ですが、「根回しが完璧になるまで動けない」になると、スピードを失います。 目安は、「社長が驚かない状態を作ること」です。提案の大枠を知っている、方向性に違和感がない——このレベルであれば、会議の場で細部は議論できます。 完璧な賛同を得てから動くのではなく、「受け取る準備ができている状態」を作ることが根回しのゴールです。
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