ゼークトの組織論とは——「無能な働き者」の本当の出典と使い方

ゼークトの組織論とは——「無能な働き者」の本当の出典と使い方 経営・マネジメント

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「やる気があって、頑張り屋さんだから採用した。でも、なぜかうまくいかない」

そんな経験はありませんか。

「やる気」を採用の軸に置く中小企業は少なくありません。でも、やる気の高さだけで採用や配置を決めていると、知らないうちに組織の中に困った状態をつくってしまうことがあります。

それを説明するときによく引かれるのが、ゼークトの組織論と呼ばれる4分類です。

この記事では、まず4分類の中身を整理します。そのうえで、この話がゼークトのものではないという出典の話と、人を分類する道具として使わないほうがいいという使い方の話をします。

ゼークトの組織論とは——4つの分類

実力(知性・判断力)とやる気(勤勉さ・行動力)の2軸で、人を4つに分ける考え方です。

実力あり 実力なし
やる気あり ② 参謀・右腕タイプ ④ 最も危険なタイプ
やる気なし ① 最高指揮官タイプ ③ そのままでいいタイプ

日本でいちばん知られているのは、「無能な働き者は、組織にとって最も害になる」という言い方です。ビジネス書や研修でよく引かれます。

ひとつずつ見ていきます。なお、これは「人の種類」の分け方として広まったものですが、わたしは置き場所の分け方として読むほうが役に立つと思っています。その理由は後半で書きます。

①「実力あり×やる気なし」——最高指揮官向き

もっとも直感に反するのが、このタイプです。

「やる気がない人が最高指揮官?」と思うかもしれません。でも、実力があるのにやる気がない、とはどういうことでしょうか。

言い換えると、本当に重要なことだけを見極めて、そこにだけ動くということです。

瑣末なことには手を出さない。余計な仕事を増やさない。「これはやらなくていい」と判断できる。こういう人が組織のトップに立つと、チームは無駄な労力を使わずに済みます。

中小企業なら、こんな人が当たるかもしれません。

  • 何でも自分でやらず、任せ方が上手い
  • 細かい作業より「どこに集中すべきか」を考えることが得意
  • 一見のんびりして見えるが、ここぞというときの判断が鋭い

②「実力あり×やる気あり」——参謀・右腕タイプ

優秀で、行動力もある。いわゆる「デキる人」のイメージに近いタイプです。

計画を立て、段取りを整え、細部まで考え抜くことができます。No.2や参謀的な役割に向いています。

ただし、このタイプをトップに置くのは要注意です。実力もやる気もあるために、自分で動きすぎてしまうことがあります。「この人がいないと回らない」状態になりやすく、部下が育たないまま属人化が進みます。

自分で動きながら人も見る立場の難しさは、こちらに書きました。

③「実力なし×やる気なし」——そのままでいいタイプ

一見いちばん問題がありそうに見えますが、元の分類では、そうでもない扱いです。

実力もやる気もないということは、余計なことをしないということでもあります。与えられた仕事を粛々とこなし、組織に混乱を起こさない。そういう役割は、どんな組織にも必要だ——という見方です。

ただ、ここは会社ではそのまま受け取らないほうがいいと思っています。「やる気がない」は、その人の性格ではなく、その職場でそう動くのが合理的だった結果であることが多いからです。

「変えよう」「育てよう」と正面から力を注ぐより先に、動いたときに見てもらえる環境になっているかを見る。順番はそちらが先だと思います。

④「実力なし×やる気あり」——最も危険なタイプ

この分類でいちばん有名なのが、ここです。

やる気があるのは良いことのはずなのに、なぜ「最も危険」なのか。間違った方向に、全力で進むからです。

判断の材料が足りないまま、エネルギーだけは高い。自分なりに「よかれ」と思って動くので、止めにくい。しかも本人は一生懸命なので、周囲も指摘しにくい。気づけば不要な仕事と混乱が積み上がっている——。

こういうパターン、思い当たることはありませんか。

採用面接でやる気と熱意だけを見ていると、この状態を増やすことになります。

ただ、先にお伝えしておきます。これは人の出来の話ではありません。後半で書きますが、「いまの置き場所が合っていない状態」です。「無能」という言葉が強すぎるので、誰かを当てはめる箱として使わないでください。

でも、ゼークトは言っていません

ここからが本題です。

この4分類は、日本では「ゼークトの組織論」と呼ばれています。ハンス・フォン・ゼークト(1866〜1936)は、ヴェルサイユ条約で10万人に制限されたドイツ軍を、幹部を中心にした精鋭組織として再建した軍人です。

ただ、この4分類をゼークトが言ったという裏づけは見つかりません。

たどれるかぎりで最も古い記録は、1933年1月19日、イギリスの軍事誌 Army, Navy & Air Force Gazette に載ったものです。同年3月に米海軍協会の機関誌、9月には Review of Military Literature に転載されています。

そこで言葉の主とされているのは、ゼークトではありません。クルト・フォン・ハンマーシュタイン=エクヴォルト(1878〜1943)。当時のドイツ陸軍統帥部長官です。ゼークトの名前は出てきません。

なぜ混ざったのか

おそらく、役職のせいです。

期間 陸軍統帥部長官
1920〜1926 ハンス・フォン・ゼークト
1926〜1930 ヴィルヘルム・ハイエ
1930〜 クルト・フォン・ハンマーシュタイン=エクヴォルト

同じ役職の、2代あとの人です。どちらもヴァイマル共和国のドイツ軍を率いた人物で、時期も近い。日本で紹介されるうちに、有名なほうの名前に寄っていったのだと思われます。

ちなみに、大モルトケの言葉として紹介されることもあります。大モルトケ(1800〜1891)はこの記録より40年以上前に亡くなっているので、こちらも裏づけは見当たりません。

ただ、大モルトケ本人の言葉として広く知られているものは別にあります。「計画は敵との最初の接触で崩れる」のほうです。こちらは出典がはっきりしています。

元の言葉は、もっときつい

1933年の記録に出てくる言葉は、だいたいこういう内容です。英語で記録されたものを短くまとめたもので、原文の逐語訳ではありません。

将校は4種類に分けられる。有能な者、勤勉な者、怠惰な者、無能な者。将校はつねにこのうち2つの性質を併せ持つ。有能で勤勉な者は参謀本部に置く。有能で怠惰な者は、最高指揮官に向く。困難な決断に必要な神経の太さと、思考の明晰さを持っているからだ。しかし無能で勤勉な者は排除しなければならない。危険すぎるからだ。

最後の一文が、日本で「無能な働き者は組織の害」として広まった部分です。

ここで立ち止まりたいのは、これは軍隊の、しかも戦争を前提にした組織の話だということです。判断を誤れば人が死ぬ場所で、指揮官の配置を決めるための言葉です。

会社でそのまま使う言葉ではありません。

人を4種類に分けると、使えなくなる

この4分類がよく使われるのは、当てはまる人が思い浮かぶからです。「あ、あの人は④だ」と。

でも、そこで止まると何も進みません。むしろ悪くなります。

  • 「あの人は④だから」と決めた瞬間に、観察が止まる
  • 本人には何も伝わらないので、状況は変わらない
  • 当てはめた側は、分かった気になって満足する

人にラベルを貼ることの危うさは、別の記事でも書きました。相手を分類する道具としてフレームワークを使うと、だいたいこうなります。

それに、人は場所によって変わります。ある仕事では空回りしている人が、別の仕事では的確に動くことがあります。同じ人なのに、位置が変わるのです。

だとすると、この4分類は人の種類の話ではありません。

「無能な働き者」は、置き場所の話

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

④は人の種類ではなく、いまの置き場所が合っていない状態のことです。

実力がないのではなく、その仕事に必要な判断材料をまだ持っていない。やる気があるぶん、材料がないまま動いてしまう。だから空回りする。

そう考えると、直す対象が変わります。人ではなく、渡す仕事です。

4分類は、人の種類ではなく「置き場所」。渡す仕事が変われば、同じ人でも位置が変わる

わたしが実際にやっていたのも、それでした。頑張っているのに空回りしている人がいたとき、説得も指導もしていません。別の仕事を渡しました。

わたしの場合は、言葉で方向を変えようとするより、渡す仕事を変えるほうが早かったです。

あなたの会社でも、空回りしている人が思い浮かんだなら、見るのはその人ではなく、その人に渡している仕事です。

そして、どの仕事なら渡せるのかの目安は、ここに書きました。

基準を言葉にできた仕事は、渡せます。逆に、渡したのに空回りが続くなら、まだ基準が言葉になっていないのかもしれません。それは相手の実力の話ではありません。

採用と配置で使うなら

そのうえで、採用や配置に活かすなら、この3つが実用的です。

「やる気」だけを採用基準にしない

面接では、どうしてもやる気や熱意が印象に残ります。「入りたい理由」「将来のビジョン」を熱く語られると、好感を持つのは自然なことです。

でも見たいのは、過去にどんな判断をし、どんな結果を出したかです。やる気はあって当然。そのうえで、判断の跡が見えるかどうかを確認する習慣をつけたいところです。

人を当てはめる前に、役割の中身を決める

「このポジションにはどのタイプが向いているか」から入ると、結局また人を分けることになります。

先に決めたいのは、その役割で何を判断してもらうのか、そしてその判断の基準を言葉で渡せるかです。ここがはっきりしていれば、渡したあとに空回りが起きても、人のせいにせずに渡し方を見直せます。

空回りを放置しない

④の状態にいる人に悪意はありません。熱意はあるので、合う仕事に置けば戦力になります。

問題は放置することです。やる気があるぶん、放置すると影響が広がります。早めに気づいて、渡す仕事を変える。それだけです。

気をつけたいこと

本人に「あなたは④だ」と言わない

言われた側は、まず傷つきます。そして「無能」と言われた記憶だけが残ります。

この分類は、自分の配置を点検するために使うものです。相手に伝えるものではありません。

自分を当てはめるのもほどほどに

「わたしは④かもしれない」と考えはじめると、手が止まります。空回りしているなら、タイプを疑うより、渡されている仕事と自分の持っている材料が合っているかを見るほうが早いです。

「排除せよ」は引き継がない

元の言葉には「排除しなければならない」とあります。軍の話です。会社でそのまま使うと、ただの人員整理の理屈になります。

引き継ぐなら、危険だから早く気づけという部分までで十分だと思います。

よくある質問

ゼークトの組織論は、結局デマなのですか

4分類そのものは1933年の軍事誌に記録があります。デマというより、名前の取り違えです。言ったとされているのはハンマーシュタイン=エクヴォルトで、ゼークトの言葉という裏づけは見つかりません。

ゼークトはどんな人ですか

ヴェルサイユ条約で10万人に制限されたドイツ軍を、将来の拡張に備えて幹部中心の精鋭組織として再建した軍人です。組織づくりの人として有名なので、組織論の話と結びつきやすかったのだと思います。

大モルトケの言葉だと聞きました

そう紹介されることもあります。ただ大モルトケは1891年に亡くなっていて、最古の記録は1933年です。40年以上のへだたりがあり、裏づけは見当たりません。

「無能な働き者」にどう対応すればいいですか

本人を変えようとするより、渡す仕事を変えるほうが早いです。そのうえで、渡した仕事の判断基準を言葉で渡せているかを確認してください。

③の「そのままでいい」は、諦めていいという意味ですか

違います。正面から「変えよう」と力を注ぐ前に、動いたときに見てもらえる環境になっているかを確認するほうが先、という意味です。やる気のなさは、その職場でそう動くのが合理的だった結果であることが多いからです。

自分の会社の人を分類してみたくなります

気持ちは分かりますが、おすすめしません。分類した瞬間に観察が止まります。見るなら人ではなく、その人に渡している仕事を見てください。

まとめ

  • ゼークトの組織論とは、実力とやる気の2軸で人を4つに分ける考え方。「無能な働き者がいちばん害になる」で知られる
  • ゼークトは言っていません。最古の記録は1933年1月19日の英国軍事誌で、言葉の主はハンマーシュタイン=エクヴォルト(当時のドイツ陸軍統帥部長官)。ゼークトの名前は出てこない
  • 混ざった理由はおそらく役職。ゼークト(1920〜26)の2代あとがハンマーシュタイン(1930〜)
  • 元の言葉には「排除しなければならない」とある。軍隊の、戦争を前提にした組織の話。会社にそのまま持ち込む言葉ではない
  • 人を分類する道具として使うと、観察が止まる。当てはめた側が分かった気になるだけ
  • ④は人の種類ではなく、置き場所が合っていない状態。直すのは人ではなく、渡す仕事
  • 採用では、やる気だけを基準にしない。人を当てはめる前に役割の中身を決める。空回りを放置しない

分類して終わりにせず、渡している仕事を見直すところまでいければ、この4分類は役に立ちます。

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