はじめに
中小企業の経営において、社長とNo.2の関係は極めて重要です。
両者が共に目標を目指していたとしても、見ているもの、捉えている範囲、立っている位置は異なります。
こうした違いを正確に理解するために有効なのが、「視点・視野・視座」という3つの概念です。
この記事では、それぞれの違いを明らかにしながら、社長とNo.2がどう補完し合うべきかを解説します。
視点・視野・視座とは何か
まずはこの3つの言葉の意味を整理します。
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視点(Point of View):どこを見るか。フォーカスの対象(例:顧客、現場、社内、数値など)
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視野(Field of Vision):どこまで広く見るか。対象のスコープ(例:チーム単位か全社か、短期か長期か)
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視座(Standpoint):どこから見るか。立場・責任・物事を捉える高度(例:現場責任者か経営者か)
この3つの「見る力」は、経営層と現場の間で大きな差を生み出します。
社長とNo.2の「見る力」の違い
視点の違い:フォーカスの対象が異なる
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社長は、市場全体や顧客の未来像、競合動向など「広く・遠く」を見ている
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No.2は、現場の実情、チームのコンディション、日々の進捗といった「近く・深く」を見ている
つまり、社長は構想と変化を見ており、No.2は現実と対応を見ている。
視野の違い:全体最適と部分最適の視点
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社長は、複数事業のバランス、財務、採用、社会的な立場など、会社全体にまたがる判断を求められる
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No.2は、チームやプロジェクト単位で成果を出すことに責任を持ち、日々の業務に集中している
No.2が部分を最適化し、社長が全体を調整する。この関係性が機能することで、組織は成長する。
視座の違い:責任の高さと未来への意識
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社長は、長期的視点に立ち、未来から現在を逆算して意思決定を行う。すべての最終責任を引き受けている
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No.2は、現場に根ざした視点を持ちつつ、社長の構想を現実に落とし込む役割を担う
社長の視座が「未来と全体」にあるとすれば、No.2は「今ここ」に立脚しつつ、その視座に近づこうとする実行者である。
見る力は役職によってどう変化するか
視座・視野・視点は、役職や責任の範囲が変わるにつれて進化していきます。
役職 | 視点 | 視野 | 視座 |
---|---|---|---|
一般社員 | 自分の仕事や顧客対応 | 担当業務範囲 | 作業者の立場 |
リーダー | チームの目標と課題 | チーム単位の成果 | 小さな単位での責任者 |
マネージャー | 複数チームや部門の連携 | 部門最適 | 管理者としての立場 |
No.2 | 組織と経営の両方に目を配る | 全体の調整と実務の整合性 | 実務責任者でありながら経営の一端を担う |
社長 | 会社全体の方向性と外部環境 | 社会・市場・未来まで含む | 経営者としての最終的な責任者 |
No.2は、この階段のなかで、最も“視座を上げること”が期待されるポジションです。
社長がNo.2に求める「視座の進化段階」
No.2の仕事は、単なる実務遂行ではありません。
社長と共に未来を見据え、経営を支える立場へと進化していくことが求められます。
第1段階:代行者
社長の指示を正確に実行する段階。再現性と忠実さが評価される。
第2段階:翻訳者
社長の構想や抽象的な言葉を、現場のメンバーが動ける形に翻訳する段階。意図を汲み、言語化し、計画に落とし込む力が求められる。
第3段階:共創者
社長と対等な視座で未来を語り、戦略立案や実行を共に担う段階。経営者に準ずる視点で物事を考え、先を読み、動けるようになる。
No.2とは、「視座を登る」存在であることが理想である。
視座の違いを補完関係に変える
視点・視野・視座の違いを理解せずに対話すると、意見の食い違いや認識のズレが起こります。
しかし、この違いは対立の原因ではなく、組織の健全性を高めるための“役割分担”です。
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社長は、未来から今を見て戦略を描く
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No.2は、現場から未来をつなぎ、実行可能な計画に落とし込む
この両者が補完し合うことで、企業は「構想と現実」がつながり、成長していくことができます。
おわりに
No.2は、社長の補佐役では終わりません。
現場と経営の橋渡し役であり、組織を動かす実務責任者であり、未来の経営幹部候補でもあります。
大切なのは、自分がどの視座に立っているのかを自覚し、常に一段上の視座を目指し続けること。
それが、No.2としての価値を高め、組織を前進させる力になります。
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