中小企業の社長は、ときに「突風」のように動きます。
市場の変化を読み、チャンスを見つけた瞬間に意思決定をし、すぐさま行動に移す。
たとえば──
「来月から新規事業を始める」
「オフィスを移転しよう」
「あのサービスを真似してすぐ導入しよう」
いずれもスピード重視で、熟慮というよりは「やってみてから考える」スタンス。
このスピード感が、中小企業が生き残るための強さであり、社長にしか出せないドライブ力です。
No.2の立場から見る“違和感”
一方で、No.2として日々現場を支える立場にいると、こうしたトップのスピード感に、少なからず“ズレ”を感じることがあります。
「急にそんなことを言われても、人も予算も足りない」
「現場の動きとまったく連携が取れていない」
「社員が振り回されて疲弊している」
こうした違和感は、多くのNo.2が一度は抱えるものです。
ただし、ここで重要なのは、このズレを“問題”と捉えるか、“役割”と捉えるかです。
No.2は、「社長のスピードと現場のリアリティの調整役」であると自覚することで、この違和感を建設的な仕事へと変えることができます。
社長のスピード=エンジン
No.2の調整力=ハンドル+ブレーキ
車で例えるなら、社長の推進力は強力なエンジンです。
けれども、エンジンだけで走る車は、止まれず、曲がれず、すぐにクラッシュしてしまいます。
そこに必要なのが、ハンドルとブレーキの役割を担うNo.2の存在です。
No.2の力で、スピードの方向を定め、必要なときに減速する。
この調整によって、組織はバランスを保ちながら前進することができるのです。
「止める」のではなく「翻訳する」
ここで大切なのは、No.2の仕事は“反対すること”でも、“ブレーキを踏むこと”そのものでもないという点です。
社長のスピードを**「現場が理解し、実行できる形に翻訳する」**。
それが、No.2としての最も価値ある貢献です。
たとえば──
-
社長の方針を、部門単位の実行計画に分解する
-
社員に目的を伝えるための説明資料を整える
-
「まず動ける範囲」だけを先に決めて、後工程の検証を進める
こうした段階的な実行戦略こそ、No.2が持つべき視点です。
現場との“摩擦”にどう向き合うか
No.2がこの役割を果たす過程では、必ずと言っていいほど“現場との摩擦”が生まれます。
「なんで急にこんなことをやるんですか?」
「ちゃんと説明してから進めてほしいです」
「前の方針と違いすぎて混乱してます」
現場は基本的に“今あるやり方”を守りたいもの。変化には抵抗感が生じます。
しかしその背景には、「理由がわからない」「準備ができていない」「誰に聞けばいいかわからない」といった、不安の正体が潜んでいます。
No.2に求められるのは、その“橋渡し”です。
「これは社長の思いつきではなく、こういう背景と意図があって動いている」
「まずはここまでやろう。無理のない形で動けるようにサポートする」
このように、社長のビジョンを“翻訳”して現場に届ける力が、組織の安心感を生み、動きを加速させていきます。
スピードの違いを「分断」にしない
スピードの違いを放置しておくと、社長と社員のあいだに“分断”が生まれます。
「社長は勝手に走っている」
「現場は疲弊してるのに聞く耳を持ってくれない」
そうなる前に、No.2がスピードギャップを認識し、調整し、連結する存在であることが、組織にとって極めて重要です。
結論:No.2は「組織の調律者」である
No.2の仕事とは、「社長のドライブ力にブレーキをかけること」ではありません。
社長のエンジンを活かしながら、現場にとっての最適なスピードに調律すること。
その調律があるからこそ、組織は暴走せず、停滞もせず、力強く前に進むことができるのです。
もし、あなたがNo.2として「このスピードに乗り切れない」と感じているなら、
それはあなたが組織にとって必要不可欠なハンドル役である証かもしれません。
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