「今期の計画、ちゃんと立てたのに、なぜこうなった……」
そう感じたことはありませんか。
丁寧に作った事業計画が、気づけば現場の動きとまったく別の形になっている。数字は合わない、人は動かない、想定外のことが次々と起きる——。
中小企業で経営を担う立場にある人なら、誰もが経験することです。
実はその問いへの答えを、19世紀のプロイセン軍参謀総長が、すでに言い切っています。
モルトケとは何者か
ヘルムート・カール・ベルンハルト・フォン・モルトケ(1800〜1891)。通称「大モルトケ」。
プロイセン軍の参謀総長として、普墺戦争(1866年)・普仏戦争(1870〜71年)を相次いで勝利に導いた、近代軍事史上最も優れた戦略家のひとりです。
彼の残した言葉の中でも、ビジネスの世界で繰り返し引用されるのが次の一節です。
「いかなる作戦計画も、敵との最初の接触を生き延びることはできない」
これが「モルトケの法則」と呼ばれるものです。
「計画は必ず崩れる」——これは諦めではありません
一見すると、「計画なんて意味がない」という虚無的なメッセージに聞こえるかもしれません。
でも実は、モルトケ自身は計画を軽視していたわけではありませんでした。むしろ彼は、事前の準備と計画立案を誰よりも重視していた人物です。参謀本部を整備し、地図の精緻化を進め、将校の教育に力を注ぎました。
では、彼は何を言いたかったのでしょうか。
それは、「計画の目的は、予測することではなく、対応力を育てることだ」ということです。
計画を立てるプロセスを通じて、チームは状況を深く理解し、判断の軸を持てるようになります。だから、予期せぬことが起きたとき——つまり「敵と接触した瞬間」——に、自律的に動けるのです。
計画そのものに縛られるのではなく、計画を通じて培った判断力で動く。これがモルトケの真意です。
中小企業の現場では、「敵」が多すぎませんか?
大企業と違い、中小・零細企業では「計画を狂わせる要因」が日常的に発生します。
- 主力社員の突然の退職
- 取引先からの急な仕様変更や値下げ要求
- 資金繰りの想定外のひっ迫
- 競合他社の予期せぬ動き
- 経営者自身の体調や家庭の事情
これらはすべて、モルトケが言う「敵との接触」に相当します。
こういった状況で「計画通りに進めることが正しい」と思い込んでいると、組織は硬直化してしまいます。かといって「計画なんて所詮は絵に描いた餅」と開き直ると、チームに方向性を示せなくなります。
大切なのは、この両極端のあいだにある「計画の使い方」を知ることです。
No.2が陥りやすい罠——「計画の守護者」になっていませんか?
No.2の役割は、経営者の意図を組織に落とし込み、現場を動かすことです。
しかし、ここで多くのNo.2が無意識に陥るのが「計画の守護者」になってしまうことです。
「これは計画と違います」「予算に入っていません」「会議で決めたこととは違います」——。
こういった言葉で現場の判断を縛り続けると、状況の変化に対応できないチームができあがります。現場は思考停止し、変化が起きても「上に聞かないと動けない」という組織になっていきます。
モルトケの法則が示すのは、No.2の本当の仕事は「計画を守ること」ではなく「目的を守ること」だということです。
計画は変わってもいい。しかし、「なぜその計画を立てたのか」「この事業で何を達成しようとしているのか」という目的だけは、絶対にブラさない。その軸を持ち続けることが、真のNo.2の役割ではないでしょうか。
経営者・No.2がすぐできる「3つの実践」
モルトケの法則をビジネスに活かすために、意識していただきたいことを3つお伝えします。
① 計画は「道具」として使う
計画書は、ゴールへの唯一の道を示すものではありません。「今、自分たちはどこにいて、どこへ向かおうとしているのか」を確認するための地図です。
地図は現実の地形が変われば、描き直す必要があります。計画も同じです。定期的に「この計画は今の現実に合っているか」を問い直す文化を、ぜひ作ってみてください。
② 「判断できる人材」を育てる
モルトケが参謀将校の育成に力を入れたのは、現場で突発事態が起きたとき、自律的に動ける人材が必要だったからです。
中小企業でも同じことが言えます。経営者やNo.2がいなくても「うちの会社は何を大事にしているか」「この判断は理念に合っているか」を考えられる社員を育てることが、組織の耐久力につながります。
③ 「なぜ」を共有し続ける
計画の中身よりも、「なぜこの方向に向かうのか」という意図を、繰り返しチームに伝え続けることが重要です。
これがあれば、計画が崩れたとき、現場は「ではどうすれば目的に近づけるか」と考えられます。これがなければ、「計画と違うから動けない」と止まってしまいます。
まとめ——「計画が崩れた瞬間」こそ、リーダーシップの見せ場
計画通りに進んでいるときは、誰でもリーダーになれます。
しかし、予想外の事態が起きたとき——顧客が離れ、社員が辞め、市場が変わったとき——に、目的を見失わずに組織を動かせるかどうか。それが、真のNo.2であり、真の経営者だと思います。
モルトケは言いました。「計画は崩れる」と。
それを知った上で、それでも計画を立て、目的を共有し、変化に対応する力を育てていく。
これが、19世紀の戦場から21世紀のビジネス現場に受け継がれた、モルトケの法則の本質です。
あなたの組織では「計画」と「目的」、どちらが強く共有されていますか?
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