プレイングマネージャーとは——意味と役割、「自分でやる」が許される条件

プレイングマネージャーとは——意味と役割、「自分でやる」が許される条件 No.2の現場術

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朝、出勤して売り場を一周する。それがわたしの一日の始まりでした。

探していたのは売上でも在庫でもなく、違和感です。はっきり異常と言えるわけではないけれど、ふだんと少し違う。そういう場所には、たいてい何か問題があります。

見つけたら、どうするか。担当者がその場にいれば伝えます。いなければ、チャットで連絡して、自分で直します。

毎朝これをやっていました。そして今ふりかえると、この「自分で直す」が、プレイングマネージャーという立場のいちばん難しいところでした。

自分でやったほうが早い。でも、自分でやると相手は気づかないままになる。

この記事では、プレイングマネージャーという言葉の意味を整理したうえで、自分で手を動かしていい条件についてお話しします。よく言われる「抱え込むな、任せろ」では終わらせません。

プレイングマネージャーとは——ひとことで言うと

プレイングマネージャーとは、自分も現場の担当を持ちながら、部下のマネジメントもする立場のことです。

プレイヤー(選手)とマネージャー(監督)を兼ねている、という意味です。もともとはスポーツの言葉で、選手兼任監督を指します。

会社では、こんな状態を言います。

  • 自分の担当(売上・顧客・現場)を持っている
  • 同時に、部下の育成・評価・シフトも見ている
  • どちらも「片手間」では済まない量がある

中小企業では、これがふつうです。というより、専任の管理職を置ける会社のほうが少ないと思います。

プレイングマネージャーの役割——管理職・No.2との違い

似た言葉と並べておきます。

言葉 何をあらわすか 現場の担当を持つか
管理職 役職。人と組織を見る立場 言葉の上では持たない
プレイングマネージャー 働き方。現場とマネジメントの兼任 持つ
No.2 立ち位置。社長と現場のあいだ 会社によって違う

管理職は、本来なら現場の実務から離れてチーム運営に専念する立場です。プレイングマネージャーは、そこから離れられていない状態、あるいは離れない選択をしている状態を指します。

No.2との違いは軸が違うところです。No.2は「どこに立っているか」、プレイングマネージャーは「どう働いているか」の話です。中小企業のNo.2は、ほとんどがプレイングマネージャーでもあると思います。

なぜこの立場が当たり前になったのか

日本でこの言葉が広がったきっかけは、1990年代のバブル崩壊だと言われています。人件費を削るなかで管理職のポストが減り、少ない人数で組織を回す必要が出てきました。

中小企業の場合は、もっと単純です。人がいないからです。

管理だけをする人を置く余裕がない。だから現場を持ったまま人を見る。景気の話というより、そもそもの人数の話です。

あなたの会社でも、管理だけをする人を置ける状態ではないのではないでしょうか。

そして、これは中小企業だけの話でもありません。

産業能率大学総合研究所とHR総研が2023年に行った「ミドルマネジャーの人事実態調査2023」という調査があります。答えたのは管理職本人ではなく、企業の人事・人事教育部門の担当者や責任者331件です。

その回答では、プレイヤー業務を兼務していないマネジャーは2.1%でした。

管理職本人に聞いた数字ではないので、「98%の管理職が兼務している」と言い切ることはできません。ただ、会社側から見ても、現場を持たない管理職はほとんどいないということです。

だとすると、この立場は「解消すべき問題」ではありません。前提です。前提であるなら、なくす話より、どう成り立たせるかの話をしたほうがいい。

「抱え込むな」では解決しない

この立場について検索すると、たいてい同じ結論が出てきます。

  • 抱え込まずに任せる
  • 優先順位をつける
  • マネジメントの時間を確保する

どれも正しいです。でも、読んだあとに「それができないから困っているんだけど」と思ったことは、ありませんか?

わたしもそうでした。任せたほうがいいのは分かっている。でも目の前に直したほうがいい場所があって、担当者は今日シフトに入っていない。そこで「任せる」という選択肢はありません。

だから問いを変えます。任せるか自分でやるか、ではなく——自分でやるとき、どうすればいいのか。

分かれ目は、返すかどうか

わたしの答えは、これです。

自分で手を動かすことは、問題ではありません。やったことを本人に返さないことが問題です。

朝の一周で違和感を見つけたとき、担当者がいなければ自分で直していました。ただ、直したまま黙って終わりにはしません。チャットで連絡してから直す。どこがどうなっていたのかが、それで本人に届きます。

これをやるかやらないかで、同じ「自分で直す」の結果が変わります。

  • 返す:担当者は、何がおかしかったのかを知る。次から自分で気づける
  • 返さない:担当者は、何も知らない。同じことが次も起きる

直した本人は、どちらでも満足します。その場は直っているからです。違いが出るのは、相手の側だけ。だから気づきにくい。

返すか、やり直すか
同じ「上の人が手を動かす」なのに、相手に残るものが真逆になります。

クレーム対応も同じでした。わたしが任せられなかった仕事の代表がこれです。お客様の申し出は、こちらの判断ひとつで大きくなります。だから自分で出ていました。

でも対応した後に、必ず担当者に返していました。「こういう申し出があって、こう対応した」と伝える。それだけです。

返していたのは、自分が楽になるためです

正直に書きます。

わたしがこれを続けていたのは、「後輩を育てなきゃ」という気持ちからではありませんでした。育てたら自分が楽になる、という自分本位な動機です。

同じ場所が毎朝おかしくなっていれば、毎朝わたしが直すことになります。返して、次から本人が気づくようになれば、わたしの朝の仕事がひとつ減る。それだけのことでした。

でも、だから続いたのだと思います。

「人を育てるのは大事だから」でやろうとすると、忙しい日に落ちます。使命感は、余裕がないときに真っ先に削られるからです。自分が楽になるためなら、忙しいときこそやる理由があります。

もし「育成に時間を割く余裕がない」と感じているなら、順番を変えてみてください。育てるために返すのではなく、自分の明日を軽くするために返す。同じ行動なら、続くほうの理由を選んだほうがいいと思います。

社長も、プレイングマネージャーだった

ここで、逆の立場の話をします。

わたしは社長から発注を任されていました。任されたと思っていました。

ところが実際には、社長が結局やり直していました。

それを知ったのは、社長本人から聞いたからです。隠していたわけではありません。やり直したことは、ふつうに伝えてもらいました。悪気はまったくなかったと思います。

たぶん社長の側から見れば、何も問題はなかったのだと思います。発注は任せた。気になったところは直した。直したことも伝えた。

でもわたしの側に残ったのは、「任されたはずなのに、結果は自分の発注ではなかった」という感覚だけでした。どこをどう直したのかは、分かりません。

ここが大事なところです。「やり直した」と伝えることと、「どこをどう直したか」を返すことは、別のことです。前者だけだと、相手に残るのは結果だけ。次に同じ発注をしても、また直されます。

同じ「上の人が手を動かす」なのに、結果が真逆になります。

やること 相手に残るもの
直して、返す 自分で直す → 何をどう直したか伝える 次から直る
任せて、やり直す 任せる → 気になったところを手直しする(やり直した事実は伝わっても、中身は伝わらない) 「任された」記憶だけ。何が違ったか分からない

社長は悪意で握っていたのではありません。自分がプレイングマネージャーであることに、気づいていなかったのだと思います。

社長が現場を手放せない状態については、こちらで書いています。

「任せたつもり」が起きる理由

任せた側は、たいてい自分が任せたと思っています。ここがやっかいなところです。

起きているのは、こういうことです。

任せた側が思っていること 任された側に起きていること
権限を渡した 判断の基準は渡されていない
今回だけ直した 「今回だけ」が毎回ある
結果は伝えた なぜそうしたかは伝わっていない
口は出していない 手は出ている

いちばん上の行が根っこです。渡したのは仕事で、判断の基準は渡していない。だから任された側は毎回外します。外すから直される。直されるから、任された感じがしない。

ひとつ補足します。この記事で「自分で手を動かしていい」と言っているのは、自分の担当の仕事についてです。人に任せた仕事に手を出すのは別の話で、そちらは約束を破ることになります。線の引き方はこちらに書いています。

返し方は、3つでいい

では実際にどう返すか。難しいことは要りません。

1. その場にいるなら、その場で言う

いちばん効きます。現物が目の前にあるので、説明が要らない。「ここ、こうしておいて」で済みます。

担当者がその場にいるときは、自分で直さずに伝えていました。現物を前にして言えるからです。

2. いないなら、チャットで連絡して直す

わたしが朝の一周でやっていたのは、これです。チャットで連絡して、自分で直す。文面は「ここがこうだったから、こう直した」くらいの一行で足ります。

文字にする利点は、記録が残ることです。同じ違和感が何度も出ているなら、それは個人の注意不足ではなく、やり方そのものに問題があります。口頭だとそれが見えません。

3. 直した理由を、ひとことだけ添える

「こう直した」だけだと、次も外します。たとえば「こうしておいた。理由は、この時間はこの並びのほうが取りやすいから」まで言うと、基準が渡ります。

長く説明する必要はありません。ひとことでいいです。というより、ひとことで言えないなら、それは基準がまだ言葉になっていないということです。

何を自分でやり、何を人に渡すか

全部返していたら時間が足りません。線を引く必要があります。

わたしが自分で持っていたのは、クレーム対応と、お金と人の評価でした。

自分でやる 人に渡す
判断を間違えると取り返しがつかないもの(クレーム対応) やり方が決まっているもの
お金と人の評価——ただし社長に上げる前の段階まで 明日でも間に合うもの
今すぐ直さないと売上や安全に響くもの 基準を言葉で渡せるもの

ひとつ正直に書いておきます。お金と人の評価は、最終的にはどちらも社長が決めていました。わたしがやっていたのは、社長に上げる前の段階です。数字をそろえる、案をつくる、どこが論点かを整理する。決めるのは社長でした。

だから「自分でやる」といっても、決めていたわけではありません。決めてもらうために整えていた。この形は、参謀の役割に近いです。

3つ目の行が、いちばん使える目安だと思います。基準を言葉にできたものは渡せる。逆に言えば、渡せないと感じている仕事は、まだ自分の中で言葉になっていないということです。

そう考えると、「任せられない」は相手の能力の問題ではないことが多いです。自分の基準が言葉になっていないだけ。

気をつけたいこと

返すのを「指導」にしない

「ここがこうなっていた」で十分です。なぜできなかったのかを問い詰めると、次から報告が上がってこなくなります。

直した事実と、直した理由だけ。評価は要りません。

全部の違和感を返さない

1日に10個返されたら、相手は何も覚えられません。返すのは、繰り返し起きているものと売上や安全に響くものだけで十分です。

残りは黙って直していい。全部伝えるのは、丁寧ではなく雑です。

自分の時間が消えていることに気づく

現場を持ちながら人を見ると、どちらも中途半端になる時間帯が出てきます。しかも本人は忙しいので、気づきません。

判断の質が落ちているサインについては、こちらに書きました。

この働き方が続くと、育つ人が減る

この記事は「前提として成り立たせる」立場で書いていますが、これが当たり前になったことの副作用もあります。現場を持ちながら人を見る働き方が標準になると、人を育てることだけに向き合える人が育ちにくくなるという問題です。

自分が楽になるために返すことと、会社として人が育つ仕組みをつくることは、規模の違う話です。後者は、意識して時間を取らないと進みません。

よくある質問

プレイングマネージャーは、やめるべき状態ですか

中小企業では、やめられないことが多いです。人がいないからです。なくす前提で考えるより、成り立たせる前提で考えたほうが現実的だと思います。

自分でやってしまうのは、やっぱりダメですか

やったことを本人に返しているなら、ダメではありません。返していないなら、その仕事はいつまでも自分のものです。

部下が育たないのは、自分がやりすぎているからですか

やりすぎているからというより、やった結果を返していないからのことが多いです。手を止める前に、返すことから始めてみてください。そのほうが早く効きます。

「任せたつもり」になっていないか、どう確かめますか

任せた仕事を、直近で自分が手直ししたかどうかを思い出してください。手直ししていて、その内容を本人に伝えていないなら、それは任せたことになっていません。

上司が「任せたつもり」の側だったら

いちばん角が立たないのは、直されたときに理由を聞くことです。「次から自分でやれるようにしたいので、どこを直したか教えてください」。相手を責めずに基準だけもらう聞き方です。

プレイングマネージャーは英語で何と言いますか

英語では player-manager です。もともとスポーツの言葉で、選手兼任監督を指します。ビジネスの文脈で「現場も持つ管理職」を言いたいときは working manager や hands-on manager のほうが通じやすいです。

プレイヤーとしての成果も求められて、両方は無理です

無理な量なら、量の問題として上に出すしかありません。ただその前に、返していない仕事がいくつあるかを数えてみてください。返していない仕事は、いつまでも自分の担当として残り続けます。減らないのは量ではなく、手放していないからかもしれません。

まとめ

  • プレイングマネージャーとは、自分も現場の担当を持ちながら、部下のマネジメントもする立場
  • 管理職は現場を持たない前提、No.2は立ち位置。プレイングマネージャーは働き方の話
  • 中小企業では人がいないので、これは問題ではなく前提。人事部門への調査でも、プレイヤー業務を兼務していないマネジャーは2.1%(産業能率大学総合研究所・HR総研 2023)
  • 「抱え込むな、任せろ」では解決しない。担当者がいない朝に、任せるという選択肢はない
  • 分かれ目は、自分でやったことを本人に返すかどうか。返せば次から直る。返さなければ同じことが起きる
  • 「やり直した」と伝えるだけでは返したことにならない。どこをどう直したかまで渡してはじめて返したことになる
  • 返し方は3つ。その場で言う/直してから文字で送る/理由をひとこと添える
  • 「任せたつもり」は、仕事を渡して判断の基準を渡していないときに起きる
  • 基準を言葉にできたものは渡せる。渡せないと感じるのは、相手の能力ではなく自分の基準がまだ言葉になっていないから
  • 返す理由は「育てなきゃ」より「自分が楽になるから」のほうが続く。使命感は忙しい日に削られる

明日の朝、何かひとつ自分で直したら、直したことを一行だけ送ってみてください。それだけで、その仕事は少し相手のものになります。

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