この記事には広告(PR)を含みます。
「調整しておいて」
この一言で仕事が降りてくる立場の人は、たいてい疲れています。
うまくまとめても、当たり前だと受け取られる。まとまらなければ、責められる。成果が見えにくいのに、消耗だけははっきりある役回りです。
あなたも、社長と現場のあいだで、こんなふうに思ったことはありませんか?
「どっちの言い分もわかる。でも、どっちにも納得してもらえない」
この記事では、調整役とはそもそも何をする仕事なのかを整理します。そのうえで、なぜこんなに疲れるのか、どうすれば板挟みで消耗せずに回せるのかを、順にお伝えします。
最初に結論をひとつだけ置いておきます。調整役のしんどさは、あなたの性格や能力のせいではありません。 仕組みの問題です。だから、考え方と最初の一手で、ずいぶん軽くなります。
調整役とは——ひとことで言うと「違う立場のあいだで、話を前に進める人」
調整役(ちょうせいやく)とは、立場や利害の違う人のあいだに立ち、話を通して物事を前に進める人のことです。
英語では、コーディネーター(coordinator)やメディエーター(mediator)が近い言葉です。
この定義で、押さえてほしいところが2つあります。
ひとつめは、ゴールが「まとめる」ではなく「前に進める」だということです。
全員が心から納得する形を目指すと、調整はいつまでも終わりません。調整役の仕事は、全員を満足させることではなく、止まっている話を、次に進める状態にすることです。
ふたつめは、調整役の多くが決定権を持っていないことです。
「決めていいよ」とは言われていないのに、「まとめておいて」とは言われる。ここが、調整役のつらさの出発点になります。後の節でくわしくお話しします。
ちなみに「調整力」は、この役割をこなすための力(スキル)の名前です。調整役は役割、調整力は能力。求人や自己PRで見かけるのは、たいてい調整力のほうです。
調整役が必要になるのは、こんな場面
調整役は、特別な役職ではありません。会社の中の、ごく普通の場面で必要になります。
| 場面 | ぶつかっているもの | 調整役がやること |
|---|---|---|
| 社長の方針と現場の実情がかみ合わない | 「早くやりたい」と「人も時間も足りない」 | 目的を伝え直し、できる範囲と条件を持ち帰る |
| 営業と製造がぶつかる | 「受注を取りたい」と「品質と納期を守りたい」 | 会社全体の数字の上で、両方の言い分を並べる |
| ベテランと若手の前提が違う | 「これまでのやり方」と「もっと効率よく」 | 変えないもの・変えていいものを分ける |
| 取引先との条件が折り合わない | 「価格」と「納期・品質」 | 譲れる線と譲れない線を、社内で先に決めてもらう |
| 会議で意見が割れる | 「A案」と「B案」 | 論点を整理して、決める人が決められる形にする |
どれも、どちらかが間違っているわけではありません。それぞれの立場から見れば、どちらも正しい。だから話が止まるのです。
中小企業では、この場面が特に多くなります。社長と現場の距離が近く、部署の壁も薄いので、ひとりの人に調整が集まりやすいからです。あなたの会社でも、「あの人に言っておけば、なんとかしてくれる」という人がいませんか? それが調整役です。
伝達係・調整役・決める人は、どう違うのか
調整役とよく混同されるのが「伝達係」です。そして、調整役が背負いこみがちなのが「決める人」の仕事です。3つを並べると、違いがはっきりします。
| 役割 | やっていること | 答えている問い |
|---|---|---|
| 伝達係 | 言われたことを、そのまま運ぶ | 「何と言っていたか」 |
| 調整役 | 相手が受け取れる形に変えて、決められる状態をつくる | 「どうすれば前に進むか」 |
| 決める人 | 選択肢の中から選び、責任を持つ | 「どれにするか」 |
伝達係は、社長の言葉をそのまま現場に運び、現場の不満をそのまま社長に持ち帰ります。往復するだけなので、移動距離は長いのに、何も変わりません。しかも両方から「話が通じない」と思われてしまいます。
一方で、調整役が「決める人」の仕事まで引き受けてしまうと、今度は権限のない決定の責任を、ひとりで背負うことになります。
調整役の居場所は、そのあいだです。運ぶだけでもなく、決めるのでもなく、決められる形を整える。 ここを押さえておくと、自分が何をやればよくて、何をやらなくていいのかが見えてきます。
なお、似た言葉の「番頭」「参謀」「右腕」「No.2」との違いは、参謀とは——意味と役割をわかりやすく、番頭・右腕との違いで表にまとめています。言葉の由来から知りたい方は番頭とは——意味と、建設業や旅館での役割、No.2との違いもどうぞ。
調整役の仕事は「伝える」ではなく「変換する」
では、調整役は具体的に何をしているのでしょうか。中身を分けると、次の5つの動きになります。
1. 両方の話を、最後まで聞く
調整は、聞くことから始まります。
ここで大事なのは、言い分の「結論」だけでなく「理由」まで聞くことです。「反対です」だけを持ち帰っても、何も調整できません。「なぜ反対なのか」が分かって、はじめて手を打てます。
2. 目的に戻す
「来月までにやれ」という指示を、そのまま現場に渡すと、ただの無理な命令に聞こえます。
調整役は、これを「なぜ来月なのか」に戻して伝えます。取引先の決算に間に合わせたいのか、繁忙期の前に終わらせたいのか。目的が分かると、現場は「それなら、ここまでは来月、残りは再来月でも目的は果たせますね」と、自分から案を出せるようになります。
わたしの口癖は「そもそも」なのですが、調整の場面ではこの言葉がよく効きます。「そもそも、これは何のためでしたっけ」と目的に戻るだけで、ぶつかっていた二人が同じ方向を向きなおすことがあります。
3. 条件に翻訳する
現場の「無理です」を、「人がもう2人いれば可能です」「納期を1週間延ばせればできます」に変えます。
これがいちばん効きます。「無理です」には情報がほとんどありません。でも「何があれば可能か」には、判断に使える情報があります。 これを引き出して持っていくだけで、調整役は伝達係から一歩抜け出します。
4. 選択肢にする
「やる/やらない」の対立は、そのままでは平行線です。
調整役は、これをA案・B案・範囲を狭めたC案のように、選べる形に変えます。対立が選択肢に変わると、話は「どちらが正しいか」から「どれにするか」に移ります。
5. 決める人に渡し、決まったことを戻す
選択肢ができたら、決める人に渡します。そして、決まったことを、決まった理由と一緒に関係者に戻します。
ここを省くと、「結局どうなったの?」「なんでそっちになったの?」がくすぶって、次の調整がもっと重くなります。
この「翻訳」の考え方は、No.2が果たすべき翻訳者の役割と言葉の届け方で、上から下・下から上の具体例を使ってくわしく書いています。
調整がすれ違うのは、立っている層が違うから
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
そもそも、なぜ調整が必要になるほど話がすれ違うのでしょうか。
性格が合わないから、ではありません。立っている層(視座)が違うからです。
以前、後輩の不満をなだめていたとき、わたしは「レイヤーが変わると、見える範囲が変わるんだよ」と言ったことがあります。調整の場面も、まさにこの話です。

どの層にいても、見えないのは「上」だけ
会社を、社長・部門長・現場のように、いくつかの層でできていると考えてみてください。
どの層にいる人も、自分の周りと、自分より下は見えています。現場の人は、自分のチームのことも、作業の細かいところも、よく見えています。見えていないのは、自分より上の層だけです。
そして、上に行くほど、見える範囲は広がります。ただし、範囲が広がるかわりに、細かさは落ちます。社長は会社全体の形は見えていても、現場の一人ひとりの事情までは、細かく見えていないことが多いのです。
上と下は、対等ではない
もうひとつ、大事な性質があります。
上の人は、下を「見て」理解できます。でも下の人は、上を「想像」するしかありません。
だから、社長と現場の話がかみ合わないとき、起きていることはこうです。
- 社長には、現場が形としては見えている。でも細かさが足りない
- 現場には、社長の判断の背景が見えない。だから想像で埋めるしかない
どちらも、手を抜いているわけではありません。それぞれの層から見える景色を、正直に話しているだけです。
調整役は、層を行き来して「見えている範囲」を翻訳する人
ここで、調整役の仕事がはっきりします。
| 層 | よく見えているもの | 見えにくいもの | 調整役が届けるもの |
|---|---|---|---|
| 社長 | 会社全体の形、先の見通し、お金の流れ | 現場の一人ひとりの事情、作業の細かさ | 現場の細かさ(条件・事情・具体的な数字) |
| 部門長 | 自部門と、その下のチーム | 社長の判断の背景、他部門の中の事情 | 上の景色と横の事情 |
| 現場 | 自分のチーム、作業の細部、お客様の反応 | 社長がなぜそう決めたのか | 上の景色(目的・背景・優先順位) |
つまり調整役は、上へは「細かさ」を、下へは「上の景色」を運ぶ人です。
社長に「現場が無理だと言っています」とだけ伝えるのは、細かさを運べていない状態です。現場に「社長がそう言っているから」とだけ伝えるのは、上の景色を運べていない状態です。
横のぶつかり、たとえば営業と製造の対立も、同じ考え方で解けることがあります。営業も製造も、自分の部門のことはよく見えています。でも、一段上の層(会社全体の数字)から見ると、両方の言い分を並べて見られる。調整役が「会社全体で見ると、この受注は利益がこれだけ残る。そのかわり、製造はこの週だけこれだけ厳しくなる」と一枚にまとめると、話が「どっちが正しいか」から「会社としてどうするか」に変わります。
視座・視野・視点の考え方は、視座・視野・視点の違い——使い分けと、視座を高める方法でくわしく整理しています。
調整役がしんどくなる4つの構造
調整役の疲れは、本人の性格や能力の問題ではありません。構造的に疲れやすい設計になっているからです。原因を4つに分けます。
組織心理学では、立場の違う相手から、両立しにくい期待を同時に向けられる状態を「役割葛藤」と呼び、1960年代から研究されてきました。調整役の疲れは、個人の弱さというより、この形そのものから生まれるものです。
1. 権限がないのに、責任がある
決める権利は与えられていないのに、まとまらなかった責任は問われる。この非対称が、いちばん大きな原因です。
決める自由のない責任は、人を確実にすり減らします。 何かを変えたくても変えられず、それでも結果だけは自分に返ってくるからです。
2. 両方の不満の受け皿になる
調整役のところには、上からの不満と下からの不満が、同時に集まります。
しかも、どちらも相手に直接言えないから、調整役に言っている。つまり調整役は、放っておくと「解決できない話が集まる場所」になってしまいます。聞くだけで何も動かせない話が積み上がると、無力感が残ります。
3. 成果が記録に残らない
調整がうまくいったとき、外から見えるのは「何も問題が起きなかった」という状態です。
防いだトラブルは、数えられません。 だから評価もされにくい。失敗だけが目に見える仕事は、続けるのがきびしくなります。
4. 見えない「上」を、想像で埋め続けている
これは、前の節の「層」の話から出てくる、見落とされやすい疲れです。
調整役は、上の層の判断を、下に説明する役目も負います。でも、自分より上の層は、調整役にも見えていません。見えないものを想像で補いながら、それを確かなことのように説明し続ける。 これは、思っている以上に頭と気持ちを使います。
そして想像が外れると、「言っていたことと違う」と、下からの信頼まで削られてしまいます。
板挟みで消耗しないための考え方——6つの土台
構造が原因なら、構造に手を入れれば軽くなります。個人の頑張りで乗り切ろうとしないのがコツです。
ここでは、具体的なテクニックの前に持っておきたい「考え方の土台」を6つ挙げます。どれも、明日の最初の調整から使える小さな一手をつけました。
1. ゴールを「合意」ではなく「決定」に置く
全員の合意を目標にすると、調整は終わりません。ひとりでも反対していれば、また往復することになるからです。
調整役のゴールは、決める人が決められる状態にすること。そして期限までに決まること。全員の満足は、目標ではなく、あればうれしいおまけくらいに考えてください。
小さな一手:次に調整を頼まれたら、「いつまでに決まればいいですか」と期限を先に聞く。
2. 着手する前に「これは誰が決めますか」と聞く
調整役の消耗の多くは、決定権があいまいなまま走り出したことから始まります。
「これは、わたしが決めていいですか。それとも、案をまとめて持っていく形ですか」
着手前のこの30秒の確認で、自分の立ち位置が固まります。決めていいなら、腹をくくって決める。案を持っていく形なら、決めるのは自分ではないと、気持ちの上でも線を引けます。
小さな一手:いま抱えている調整ごとを1つ選び、「決める人は誰か」を紙に書く。書けなければ、それが最初に確かめることです。
3. どちらかの味方ではなく、「目的」の味方になる
板挟みがつらいのは、社長の味方をすれば現場に恨まれ、現場の味方をすれば社長ににらまれるからです。
でも、調整役が味方をする相手は、どちらかの人ではありません。この話の目的です。「お客様に約束した納期を守る」「会社にお金を残す」。目的の側に立つと、どちらに対しても同じことを言えるようになります。
言っていることが相手によって変わらない人は、時間はかかっても、両方から信頼されます。
小さな一手:調整の最初に、「この話の目的は◯◯ですよね」と両方に同じ一文で確認する。
4. 不満は「その層から見えている事実」として受け取る
現場からの不満を聞くと、「わがままだな」と感じることがあるかもしれません。社長の指示を聞くと、「現場を分かっていない」と感じることもあるでしょう。
でも、前の節で見たとおり、どちらも自分の層から見えている景色を、正直に話しているだけです。
不満を「相手の性格」として受け取ると、調整役の心がすり減ります。「その層から見ると、そう見えるんだな」と受け取ると、感情からいったん距離を置けます。そのうえで、事実と気持ちを分けて持ち帰ります。気持ちは受け止める。運ぶのは事実と条件。
小さな一手:不満を聞いたら、メモを「事実」と「気持ち」の2列に分けて書く。上に持っていくのは「事実」の列だけにする。
5. 自分の層で解けない話は、抱えずに「層を上げて」渡す
調整役は、全部を引き受ける役ではありません。
自分より上の層でしか決められないことを、自分の中でなんとかしようとすると、見えない上を想像で埋め続けることになります。これが一番すり減ります。
「これは、わたしの判断では決められないので、直接話す場をつくります」
こう言っていいのです。解けない話を上に渡すのは、逃げではなく、調整役の正しい仕事です。渡すときは、事実と選択肢をそろえて渡せば、丸投げにはなりません。
小さな一手:抱えている話を「自分の層で決められる」「上でしか決められない」の2つに分け、後者を今週中に1つ上に渡す。
6. 防いだことを、自分で記録する
成果が残らない仕事なら、自分で残せばいいのです。
いつ、誰に、何を確認したか。どんな対立を、どんな形で決定まで運んだか。短いメモでかまいません。
この記録は、あとで「言った・言わない」になったときに自分を守ります。そして、評価の場で「何も起きなかった」を成果として説明する材料になります。
小さな一手:スマホのメモに「調整ログ」を1つ作り、今日のやりとりを1行だけ書く。
もっと具体的な処方箋、たとえば仕事の任せ方や、社長への「NO」を提案に変える方法は、No.2が板挟みのストレスから抜け出す5つの方法にまとめています。すでに疲れがたまっている方は、No.2が燃え尽きないためのエネルギー管理の方法もあわせて読んでみてください。
ついやりがちな言い方と、調整役の言い換え
考え方がわかっても、とっさの場面では、つい楽な言い方をしてしまうものです。よくある言い方を並べてみました。
| ついやりがちな言い方 | 起きること | 調整役の言い換え |
|---|---|---|
| 「社長がそう言ってるから」 | 現場は「理由は知らない」と受け取り、納得しない | 「社長がこう決めたのは、◯◯を守りたいからです」 |
| 「現場が無理だと言っています」 | 社長は「やる気がない」と受け取る | 「人があと2人いれば可能、という話です。どうしますか」 |
| 「わかりました、なんとかします」 | 決定権のない責任を、ひとりで背負う | 「これは、わたしが決めていい話ですか」 |
| 両方に「そうですよね」 | どちらからも「味方だと思っていたのに」と言われる | 「◯◯さんの心配は△△ですね。その点も含めて案にします」 |
| 「とりあえず様子を見ましょう」 | 期限のない調整が、ずっと手元に残る | 「◯日までに決めたいので、それまでに案を2つ出します」 |
| 不満を、感情ごと上に持っていく | 上は「また文句か」と受け取り、話が進まない | 「事実はこの3点です。気持ちの面では、◯◯が引っかかっているようです」 |
右側に共通しているのは、目的・条件・期限・決める人のどれかが入っていることです。これが入るだけで、言葉が「運ぶ」から「前に進める」に変わります。
社長に話を通す前の段取りは、ボスマネジメントとは——社長の判断軸をつかむNo.2の技術も参考になると思います。
歴史の調整役——豊臣秀長
調整役という仕事をいちばん長く続けた人として思い出すのが、豊臣秀長です。天下を取った秀吉の弟です。
大名たちとの折衝をまとめ、兄の無理な戦を諫め、家中の不満を引き受ける。秀長がやっていたのは、まさに調整でした。当時の大名・大友宗麟が「内々のことは千利休に、公のことは秀長に相談するように」と書き残したと伝わっています。公の話は、あの人を通せば進む。そう見られていたわけです。
2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、その秀長が主人公です。ドラマのなかで秀長が口にする「万事円満じゃ」は、調整役の仕事をひとことで言い当てているように思います。
角は立てない。でも、物事は前に進める。この両方を同時にやるのが、調整役です。
そして、秀長のすごさがはっきりしたのは、亡くなったあとでした。秀長の死から1ヶ月ほどで、秀吉は千利休に切腹を命じます。翌年には朝鮮への出兵が始まりました。止める人がいなくなった、ということです。
調整役の成果は、うまくいっているあいだは見えません。いなくなってから、はじめて分かる。先ほどの「成果が記録に残らない」という話は、四百年前から変わっていないのかもしれません。
調整役に向いている人の特徴
「自分は調整役に向いているのだろうか」と感じている方もいると思います。向いている人には、次のような特徴があります。
1. 聞くことが苦にならない。でも、全部を引き受けない
話を最後まで聞ける人は、調整役に向いています。ただし、聞いた話を全部自分で解決しようとする人は、すぐに消耗します。聞くことと、引き受けることを分けられる人が長く続きます。
2. 「そもそも」に戻れる
目の前の言い合いから一歩引いて、「そもそも何のための話だったか」に戻れる人です。細かい論点で熱くなっている場を、目的に引き戻せます。
3. 事実と気持ちを分けられる
相手の気持ちに寄りそいながらも、運ぶのは事実と条件。この切り分けができる人は、感情に巻きこまれにくくなります。
4. 層を行き来するのが嫌いではない
社長の話を聞いた次の瞬間に、現場の話を聞く。上の景色と、下の細かさを行ったり来たりすることを、面白いと思える人です。
5. 自分で決めない勇気がある
意外かもしれませんが、調整役に向いているのは「なんでも決められる人」ではありません。自分が決めるべきでないことを、決めずに上へ渡せる人です。
「向いていない」と感じている方へ
ここまで読んで、「自分は向いていない」と感じたかもしれません。
でも、上の5つは、生まれつきの性格というより、やり方の型です。とくに1と5は、「優しい人」ほど苦手になりやすいところです。相手のために全部を引き受け、自分で決めてしまうからです。
向き不向きで悩むより、まずは「これは誰が決めますか」と聞くところから試してみてください。型がひとつ入るだけで、同じ仕事の重さはかなり変わります。
調整役を置く側(社長・上司)がやること
もしあなたが社長や部門長で、誰かに調整を任せている立場なら、やってほしいことが3つあります。
- 権限の範囲を、言葉と数字で示す……「いくらまでなら決めていい」「この範囲なら事後報告でいい」を決めておく
- まとまらなかった案件を、本人の失点にしない……構造の問題を個人の責任にすると、次から誰も調整を引き受けなくなります
- 防いだトラブルを評価する……「何も起きなかった」ことを、成果として言葉にして伝える
3つめは、意識しないとできません。トラブル対応は目立つので評価されますが、そもそもトラブルを起こさなかった調整は、誰の目にも入りません。ここを見ている上司がいるかどうかで、調整役が続くかどうかが決まります。
あなたの会社の調整役は、疲れた顔をしていませんか? 管理職が疲れているときのサインは、管理職が疲弊する罰ゲーム化のサインと経営者の対処法にまとめています。
よくある質問
Q. 調整役の読み方と、英語での言い方は?
「ちょうせいやく」と読みます。英語では、コーディネーター(coordinator)や、あいだに入って仲裁する意味合いが強いときはメディエーター(mediator)が近い言葉です。
Q. 調整役と調整力は、何が違いますか?
調整役は「役割」、調整力は「その役割をこなすための能力」です。「調整役を任される」「調整力を身につける」のように使い分けます。
Q. 調整役とNo.2は同じですか?
同じではありません。No.2は社長と現場のあいだに立つ人で、場面に応じて調整役の役割も担います。つまり調整役は、No.2が担う役割のひとつです。社長のスピードと現場をどう調律するかはNo.2の役割とは——組織のスピードを調整する仕事で、似た言葉との違いは参謀とは——意味と役割をわかりやすく、番頭・右腕との違いの比較表で整理しています。
Q. 調整役は、評価されない損な役回りですか?
評価されにくい構造があるのは本当です。でも、それで終わりにしなくて大丈夫です。防いだことを自分で記録し、「決める人は誰か」を先に確かめるだけで、調整役は「なんでも押しつけられる人」から「話を前に進める人」に見え方が変わります。評価は、見える形にした分だけついてきます。
Q. 調整役に向いていないと感じます。やめたほうがいいですか?
やめる前に、「全部を引き受けていないか」を見直してみてください。向いていないと感じる理由の多くは、決定権のない話まで背負っていることにあります。「これは誰が決めますか」と聞く、解けない話は上に渡す。この2つを試してからでも、判断は遅くありません。
Q. 板挟みがつらくて、限界に近いです。どうすればいいですか?
まず、ひとりで抱えている話を、上の人に「わたしの判断では決められません」と渡してください。それは逃げではありません。そのうえで、No.2が板挟みのストレスから抜け出す5つの方法やNo.2が燃え尽きないためのエネルギー管理の方法も参考にしてみてください。眠れない、食欲がないといった状態が続くときは、仕事の工夫より先に、医療機関や専門家に相談してください。
まとめ
調整役について、この記事でお伝えしたことを整理します。
- 調整役とは、立場や利害の違う人のあいだに立ち、話を通して物事を前に進める人(読み方は「ちょうせいやく」)
- ゴールは「全員をまとめる」ではなく「前に進める」。合意ではなく決定を目指す
- 伝達係は運ぶ、決める人は選ぶ、調整役は決められる形を整える
- 仕事の中身は、①最後まで聞く ②目的に戻す ③条件に翻訳する ④選択肢にする ⑤決める人に渡し、決まったことを戻す
- すれ違いは、性格ではなく立っている層の違いから起きる。どの層でも周りと下は見えていて、見えないのは上だけ
- 上は下を見て理解でき、下は上を想像するしかない。そして上ほど範囲は広いが、細かさは落ちる
- だから調整役は、上へは「細かさ」を、下へは「上の景色」を運ぶ
- しんどさの原因は、①権限なき責任 ②不満の受け皿 ③成果が残らない ④見えない上を想像で埋め続ける、という構造
- 消耗しない土台は、①合意より決定 ②「誰が決めますか」 ③目的の味方 ④不満は層から見えた事実 ⑤解けない話は上に渡す ⑥防いだことを記録する
持ち帰ってほしいのは、ひとつだけです。
調整を頼まれたら、着手する前に「これは誰が決めますか」と聞く。
この一言があるかないかで、同じ仕事の重さがまるで変わります。


コメント