「なぜこの商品が売れるのか?」
それは、論理ではなく“心理”にヒントがあるかもしれません。
セブン-イレブンを日本一の流通チェーンに育てた鈴木敏文氏は、行動経済学と心理学を実践的に取り入れた商売を展開してきました。
わたしは18年間セブンイレブンの店舗運営に従事してきました。各店舗ごと、オーナーさんのそれぞれの考え方が色濃く出るFCの店舗ですが、創業者鈴木氏の考え方が個人的にとても腹落ちし、積極的に取り入れていたので、その内容をお伝えしていきたいと思います。
この記事では、鈴木氏の商売哲学を「人間の心理」から読み解き、売上を伸ばすヒントを紹介します。
人間は「非合理的」な存在である
経済学では、人は合理的に行動する「ホモ・エコノミクス」として扱われますが、 現実の消費者は、感情や直感、習慣に基づいて行動しています。
だからこそ、売り手は「論理」で説得するのではなく、 「感情に寄り添う設計」をしなければなりません。
昨今、行動経済学が注目されて、日本でもたくさんの書籍が出版されていますが、鈴木氏が日本での先駆者だったのではないかと思っています。
「心理」に働きかける売り方が必要
ここではまず、「行動経済学」とは何ぞや、というところから。
行動経済学は、「人は必ずしも合理的に行動しない」という現実の人間の心理や感情を研究する学問です。経済学と心理学が合わさった分野で、人が直感や感情に左右されてどのように判断し、行動するのかを明らかにします。
例えば、普通の経済学では「人は常に自分にとって一番得になる選択をする」と考えますが、実際には「損をしたくないから新しいことに挑戦しない」「なんとなく高いものを買ってしまう」など、感情や思い込みで非合理的な行動をとることが多いです。
行動経済学では、こうした「人がなぜ間違った判断や行動を繰り返すのか」「どんな心理的なクセ(バイアス)があるのか」を解き明かします。たとえば「損失回避性」(損するのが嫌なのでリスクを避ける)や「現状維持バイアス」(今のままが楽なので変えたくない)などが有名な例です。
この学問は、ビジネスやマーケティング、政策づくり、自己管理(ダイエットや貯金など)にも活かされています。人がどんなときにどんな行動をしやすいかを理解することで、より良い選択や行動を後押しできるからです。
-
単なるスペックや説明ではなく、「お客様がどう感じるか」を想像する。
-
売れ行きデータの裏にある「なぜその行動をとったのか?」という心理に注目する。
-
感情や生活習慣と結びついた買い方を理解することが、次の打ち手につながります。
売り手の論理ではなく、買い手の心理から出発せよ
- 「こう売りたい」という売り手の都合では商品は動かない。
- 「こう買いたい」と思わせる工夫が重要。
- 買い手が自然に手に取る流れ・場面・気分を想定する。
仮説→検証を繰り返す
- 「こういう心理で買っているのでは?」という仮説を立てる。
- 実際の売上データや時間帯別の傾向を見て検証する。
- 思い込みではなく、事実に基づいた改善が商売を強くします。
選択肢は“絞る”ほうが人は動く
- 商品が多すぎると、逆に選べなくなる(ジャムの法則)。
- 人は少ない選択肢の中で安心して動ける傾向がある。
- 売場では「選びやすさ」を意識する。
「なじみ感」が購買行動を促す
- 目新しすぎる商品は警戒されやすい。
- 親しみやすさや「知ってる感」が購買の背中を押す。
- わかりやすく、手に取りやすくすることが心理的安心につながる。
「買わない理由」を取り除く
- 商品の魅力を上げるよりも、「買わない心理的ハードル」を下げる工夫が効果的。
- 不安・面倒・わからなさを取り除く。
- 例えば、「サイズ感がわからない」「使い方がイメージできない」などが典型的な心理的ハードル。
顧客の声は必ずしも真実ではない
- アンケートや要望に表れない「無意識の行動」にこそ本質が隠れている。
- 「何を言ったか」より「どう行動したか」を見る。
- 言葉の裏にある本音を探るには、観察とデータが鍵。
まとめ
鈴木敏文氏の商売哲学は、「人の心を観察すること」に根ざしています。
行動経済学や心理学の視点を取り入れることで、 売れ行きや反応の“なぜ”がわかるようになり、 無理に売ろうとしなくても、自然と売れる仕組みができあがります。
中小企業や個人店舗でも、今日から始められる視点です。 ぜひ、1日1回「お客様の行動の理由」を考えてみてください。
コメント