脳のリソースとは——意味と、頭の容量を空ける5つの方法

脳のリソースとは——意味と、頭の容量を空ける5つの方法 コラム・思考

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「夕方になると、大したことでもないのに決められなくなる」

そんな日はありませんか。

朝は次々とさばけていたのに、夕方には「明日の会議、何時からにするか」すら決めきれない。体は疲れていないのに、頭だけが動かない。

これは根性の問題ではありません。脳の側の容量の問題です。

この記事では「脳のリソース」という言葉の意味を整理したうえで、それが減っているときのサインと、空けるための具体的な方法をまとめます。

脳のリソースとは——ひとことで言うと

脳のリソースとは、判断したり考えたりするときに使える、脳の容量のことです。

「頭のリソース」も同じ意味で使われます。どちらも正式な専門用語ではなく、心理学や脳科学でいうワーキングメモリ(作業記憶)や認知資源を、日常の言葉に置きかえた言い方です。

ポイントは3つです。

  • 有限である:一度に扱える量には限りがある
  • 減る:使えば減る。戻り方は人それぞれで、休めば元通りとは限りません
  • 奪い合いになる:小さな判断に使えば、大きな判断に回す分が減る

だから「脳のリソースを空ける」とは、大事な判断のために容量を残しておくという意味になります。

「リソースを割く」の「リソース」とは違うのか

ここで一度整理しておきます。ビジネスの場で「リソース」と言うとき、多くは経営資源を指します。ヒト・モノ・カネ、それに情報や時間です。「この案件にリソースを割く」と言えば、人や予算を回すという意味です。

「脳のリソース」は、その使い方を自分の頭の中に持ち込んだ言い方です。

経営資源のリソース 脳のリソース(頭のリソース)
指すもの ヒト・モノ・カネ・情報・時間 判断や思考に使える脳の容量
誰のものか 会社のもの 自分のもの
答えている問い 何にどれだけ投入するか 何を自分で決めるか
減る原因 使った分だけ減る 小さな判断・気がかり・情報量
増やし方 採用・投資・外注 増やすより「空ける」

いちばん大きな違いは最後の行です。経営資源は増やせます。人を採り、投資をすればいい。でも脳のリソースは、増やすより空けるほうが現実的です。

会社のリソース配分の話はこちらで整理しています。

なぜ有限なのか——ワーキングメモリの話

脳のリソースが有限だと言える根拠は、ワーキングメモリの研究にあります。

ワーキングメモリは、一時的に情報を置いて、それを使って考えるための作業台のようなものです。電話番号を聞いてメモするまで覚えておく、相手の話を聞きながら返事を考える。あれがワーキングメモリの仕事です。

そしてこの作業台は、思っているよりずっと狭いことがわかっています。

  • 心理学者のジョージ・ミラーは1956年、人が一度に扱える情報のかたまりは7±2個だと示しました
  • その後ネルソン・コーワンは2001年、より厳密に測ると4±1個だと報告しています

4つです。指の数より少ない。

頭の作業台には、4つしか置けない
小さな気がかりで埋まると、大事な判断を置く場所がなくなります。

「あとで折り返さないと」「この見積、金額が合ってない気がする」「明日の会議は何時からにするか」「さっきの社長のひとこと、どういう意味だろう」——この4つを頭に置いたまま会議に出れば、作業台はもう埋まっています。人の話が入ってこないのは、当たり前なのです。

「1日に35,000回の意思決定」という話について

この話題では、「人は1日に35,000回の意思決定をしている」という数字がよく出てきます。「スタンフォード大学の研究によれば」と添えられていることも多いです。

ただ、この数字には研究の裏づけがありません。

出どころをたどると、2016年に新聞のコラムで使われたのが広まりのきっかけで、元になる研究が見つかりません。よく引用元とされる本を調べても、その記述は確認できませんでした。実際に数えた研究としては、食事に関する判断で1日226.7回という数字があります。

数字はあてになりませんが、話の筋は変わりません。小さな判断の積み重ねで頭が消耗するという実感のほうは、多くの人が持っているものです。この記事では、数字ではなく作業台の狭さの話として進めます。

リソースが減っているときのサイン

脳のリソースは目に見えません。減っていることに気づかないまま、大事な判断をしてしまうのが困りものです。

サインは、だいたいこの形で出ます。

残っているとき 減っているとき
迷っても決められる 「また明日」で先送りする
反対意見を聞ける 反論が面倒に感じる
相手の言い方の裏を読む 言葉どおりにしか受け取れない
選択肢を3つ出せる 出てきた1つに乗る
「そもそも何のためか」と戻れる 目の前の話だけで判断する
断るときに理由を添えられる 全部引き受ける、または全部断る

右側が並んだ日は、判断の質が落ちています。

特に危ないのは「出てきた1つに乗る」です。これは決めているように見えて、実は決めていません。考える余裕がないから、最初に出た案をそのまま通しているだけです。

脳のリソースを空ける5つの方法

順番に意味があります。①〜③は「判断の数そのものを減らす」話。④は「残った分を、どこに使うか」の話。そして⑤がいちばん根っこで、「決める人を増やす」話です。

1. 決めることを減らす——すでにある予定の後ろにくっつける

毎日・毎週同じ時間に同じことをすると、そのつど決める必要がなくなります。

有名な例では、アップルのスティーブ・ジョブズがいつも同じ服を着ていた話があります。オバマ元大統領は、スーツの色を2種類に絞っていた理由を「決めることを減らしたいから」と語っています。服を選ぶ判断を、そもそも発生させない形です。

わたしがセブン-イレブンで店舗を見ていたころは、こんな形で動いていました。

  • 月曜:早朝勤務が明けたあとに、次週の商品情報に目を通す
  • 火曜:夕方に、値札の漏れをチェックする
  • 木曜:屋外の作業が終わったあとに、駐車場の草むしり

わたしはこれを大人の時間割と呼んでいます。子どものころの時間割と同じで、その時間にやることが決まっていれば、迷う場面が消えます。

並べてみると、ひとつ共通点があります。どれも「すでに決まっている予定の後ろ」にくっついていることです。

「早朝勤務の後」「屋外作業の後」。この形にすると、いつやるかを決める必要がなくなります。前の予定が終わった時点で、次にやることが自動的に決まるからです。

これがけっこう大事で、自分で「今週はいつ商品情報を見ようか」と考えはじめると、それ自体が判断になります。しかもこういう「急ぎではないけれど大事なこと」は、判断にかけるたびに後ろへずれていきます。

草むしりも同じです。屋外の作業の後ろに置いてあるので、「今日はやめておこうか」と考える場面が、そもそも来ません。

あなたの会社でも、まず探すのはすでに固定されている予定です。週次の朝礼、月初の締め、定例会議。その前後に、後回しになりがちなことをくっつけてしまう。新しく時間を作るより、ずっと続きます。

2. 覚えておくことを、外に出す

覚えておかなければならないことが多い状態は、作業台の上に荷物が置いてあるのと同じです。作業する場所が、その分だけ狭くなります。

「あとで社長に言わないと」「あの見積、確認しないと」。これを頭の中に置いている間、そのぶんの容量がずっと使われています。

やることは単純で、頭の外に出すことです。

  • やることは全部書き出す(紙でもメモアプリでもかまいません)
  • 稟議や相談の窓口をひとつに決める(チャットのこのチャンネル、というように)
  • 事業にかかわる会話はグループチャットでして、議事録の代わりにする

3つめは、わたしが実際にやっていた方法です。あとから「あれ、どう決まったんだっけ」と思い出す作業そのものが消えます。

ただ、ひとつ困ることがありました。わざわざ個別のチャットに切り替えて話してくる人がいるのです。

これをやられると、せっかく外に出したはずの記憶が、自分の頭に戻ってきます。個別のやりとりは他の人に見えないので、決まったことを自分が覚えておいて、あとで共有しなければならない。仕組みはあるのに、自分の作業台だけが埋まっていく。

悪気はないのだと思います。全員に見られる場所には書きにくい、という気持ちもわかります。

それでも事業の話はグループに戻したほうがいいので、わたしは「それ、グループにも書いておいてもらえますか」と返していました。それで直る人もいます。

ただ、それでもダメな人はいます。そのときは諦めていました。全員に守らせようとすると、今度はそれを気にすることが新しい気がかりになるからです。仕組みは、守る人の分だけ効けば十分だと思っています。

大事なのは、忘れてもいい状態を作ることです。忘れないように頑張るのをやめる。

3. 入ってくるものを絞る

スマホの通知、際限なく届くメール、流れ続けるチャット。

「見るか、見ないか」も判断です。1日に何十回も通知が来るなら、何十回も判断していることになります。

  • 就業時間外の通知はオフにする
  • メールを見る時間を1日2〜3回に決める
  • チャットの通知ルールをチームで決める(全員に飛ぶ設定を見直す)

3つめは、自分ひとりでは解決しません。チームで決める話です。夜中に送られたメッセージに反応してしまう人が1人いると、全員がそうなっていきます。

ただし、自分の通知を切るだけだと現場が止まります。切る前に決めておくことは、後ろの「気をつけたいこと」でまとめます。

4. 大事な判断を、残っている時間に置く

朝のほうが決めやすくて、夕方になると判断が雑になる。この感覚は、多くの人が持っているものです。なら、大事な判断を朝に寄せるほうが合理的です。

  • 重い判断・お金の判断は午前に
  • 夕方は、決める会議より報告を聞く時間に
  • どうしても夕方に決めなければならないなら、選択肢を3つに絞ってもらってから聞く

最後のひとつは、相手にお願いする形です。「案を3つに絞って、それぞれの一番のリスクを添えて持ってきて」と頼む。判断の前段の作業を、こちらの頭でやらない。

5. 自分が決めないことを増やす

いちばん効くのに、いちばん進まないのがこれです。

判断の数を根本から減らす方法は、自分以外の人が決められる範囲を広げることしかありません。ルーティン化も仕組み化も、自分が決める前提のままでは限界があります。

ただし、任せ方を間違えると逆に増えます。中途半端に任せると、報告を受けて判断し直す仕事が生まれるからです。

No.2の脳のリソースが、特に減りやすい理由

ここはNo.2ならではの話です。

No.2は、社長の言葉と現場の言葉を、頭の中で翻訳しながら仕事をしています。社長の「なんとかしといて」を現場の手順に直し、現場の「できません」を社長に伝わる形に直す。

この翻訳作業が、実はいちばん容量を食います。しかも両方を同時に頭に置いておかないとできません。作業台の上に、社長の意図と現場の事情を並べて置いたまま、一日が終わる。

さらに、プレイングマネージャーとして自分の担当も持っていれば、その分も乗ります。

「忙しくはないのに、なぜか疲れている」という感覚があるなら、たいていこの翻訳作業が原因です。

相手の作業台も、埋まっている

ここまで自分のリソースの話をしてきましたが、同じことが相手にも起きています。

考え事をしているとき、人の話は本当に入ってきません。聞こえてはいるのに、内容が残らない。

わたしは家でもそうです。夫に話しかけようとして、あ、いま別のことに意識がいっているなと感じたら、「やめよう、後にしよう」と思います。同じ話でも、そのタイミングだとちゃんと届かないからです。

これを会社でやると、かなり効きます。

社長に判断を仰ぎにいくとき、社長の作業台が埋まっていれば、どんなにいい案でもまともに扱われません。返ってくるのは「で、結論は?」か、その場の思いつきです。案が悪かったのではなく、置く場所がなかっただけ、ということが起こります。

埋まっているサインは、だいたい見た目に出ます。

  • 画面から目を離さない
  • こちらの言葉をそのまま繰り返す(「なるほど、値上げね」で止まる)
  • 「あとで」「それ急ぐ?」が増える
  • 質問が出てこない

このサインが出ていたら、その日は情報だけ置いて帰るほうがいい。「判断してほしいことが1つあります。明日の朝、10分いいですか」で十分です。

ただし、悪い情報はタイミングを選ばない

ここはきっちり分けてください。

悪い情報は、相手の容量を見ずに、すぐ持っていきます。 トラブル、事故、数字の落ち込み。これを「今は機嫌が悪いから」と遅らせるのは、隠すのと同じことになります。相手の容量を待っていいのは、決めてもらうことだけです。

  • 報告は速さが優先
  • 判断は容量が優先

機嫌を見て報告を遅らせる人は、参謀とは呼ばれません。そのあたりはこちらで書いています。

順番を変えるだけで通る案は、実際にあります。No.2の仕事には、中身を作る力と、置くタイミングを選ぶ力の両方が必要です。

空いてくると、何が変わるか

リソースが空いた状態で仕事をすると、はっきり変わることがあります。

ひとつ上の高さから考えられるようになります。

目の前の判断だけで手一杯のときは、その判断が正しいかどうかしか考えられません。余裕があると、「そもそもこれは何のためだったか」に戻れます。

わたしの口癖は「そもそも」です。会議が煮詰まったときに「そもそも、これって何のためでしたっけ」と聞く。でもこの問いは、自分に余裕がないと出てきません。余裕がないときは、目の前の議題を終わらせることしか考えられないからです。

見える範囲が変わる話は、こちらで詳しく書いています。

気をつけたいこと

ルーティンを増やしすぎると、動けなくなる

時間割は便利ですが、埋めすぎると今度は融通が利かなくなります。急な対応が入るたびに崩れて、崩れたことにストレスを感じるようになります。

埋めるのは、後回しになりがちなことだけで十分です。

通知を切るだけでは、現場が止まる

自分の通知を切ると自分は楽になりますが、連絡がつかない時間帯ができます。そこに急ぎの話が来ると、現場が判断を待って止まります。

切るなら、止まったときにどうするかを先に決めてから切ってください。「この時間は電話ならつながる」「判断はこの人に任せる」まで決めて、はじめて切れます。

「リソースが足りない」を言い訳にしない

「今日は頭が回らないから」で流していい判断と、流してはいけない判断があります。人の評価、お金、辞める・辞めないの話。これは疲れていても、今日決めないと決めたうえで、日を改めて向き合うべきものです。

使い方と例文

社内で使うときの言い方です。

言い方 意味 使う場面
脳のリソースを食う 考える容量を奪っている 「この報告フォーマット、脳のリソースを食うから変えましょう」
リソースが空いた 考える余裕ができた 「あの件が片づいて、やっとリソースが空きました」
リソースを空けておく 大事な判断のために残す 「来週の交渉に向けて、リソースを空けておきます」
リソースを割く 人や時間を投入する(経営資源) 「新規事業にリソースを割く」

いちばん下だけ、意味が違うことに注意してください。「割く」は経営資源の話です。

読む時間がない、というとき

判断の質を上げたいけれど、本を読む時間まで取れない。これも、脳のリソースの問題です。読書を「机に向かう作業」から外してしまう方法があります。

Audible(オーディブル)なら、車での移動中や皿を洗いながらでも1冊聴けます。目と手が空いていなくても入ってくるので、リソースの取り合いになりません。プレミアムプランは30日間の無料体験から始められます(登録したことがない方が対象です)。

ただし、聴くだけでは残らないという方もいます。その場合は、気になったところだけ後から本で読み直すと定着します。

読むほうが早いという方は、Kindle Unlimited(30日間の無料体験)という手もあります。読み放題なので、合わない本を途中でやめる判断が軽くなります。「この本を読み切らないといけない」という気がかりが消えるぶん、頭の容量も空きます。

よくある質問

脳のリソースと頭のリソースは違いますか

同じ意味で使われています。どちらも正式な専門用語ではなく、ワーキングメモリや認知資源を日常の言葉で言いかえたものです。社内で使うなら、相手が使っているほうに合わせるのが無難です。

ワーキングメモリは鍛えられますか

鍛える方法を扱った研究はありますが、日常の仕事に効くところまで広がるかは、はっきりしていません。仕事の場面では、鍛えるより空けるほうが確実です。作業台を広くするのは難しいけれど、荷物を下ろすのは今日できます。

決断疲れは本当にあるのですか

「決断疲れ(decision fatigue)」という言葉は研究の世界でも使われていますが、その仕組みについては議論が続いています。「意志の力が使うと減る」という説明には、再現性をめぐる異論もあります。

ただ、夕方に判断が雑になる実感そのものは、多くの人が持っているものです。原因を疲れに求めるより、判断の数を減らす・順番を変えるという対処のほうが、確実に効きます。

睡眠や食事で回復しますか

回復の土台が睡眠であることは確かです。ただ、この記事で扱っているのは「どう回復するか」より「そもそも何に使っているか」の話です。回復量を増やすより、消費を減らすほうが早く効きます。

マルチタスクができる人はリソースが多いのですか

同時に複数を処理しているように見える人も、実際には切り替えているだけだと考えられています。そして切り替えのたびに、少しずつ容量を使います。

「あれもこれも見えている人」は、リソースが多いのではなく、見なくていいものを決めていることが多いです。

部下の脳のリソースを空けることはできますか

できます。というより、そこがNo.2の仕事です。

  • 判断の基準を先に渡す(毎回聞かなくていい状態にする)
  • 報告の形式を固定する(何を書くか迷わせない)
  • 相談の窓口をひとつにする(どこに言えばいいか迷わせない)

どれも「決めなくていいことを増やす」やり方です。

まとめ

  • 脳のリソースとは、判断したり考えたりするときに使える脳の容量のこと。「頭のリソース」も同じ意味
  • 経営資源の「リソースを割く」とは別の話。経営資源は増やせるが、脳のリソースは増やすより空ける
  • 根拠はワーキングメモリの狭さ。一度に扱えるのは4個前後(コーワン 2001)
  • 「1日35,000回の意思決定」という数字には研究の裏づけがない
  • 減っているサインは、出てきた1つに乗る・反論が面倒に感じる・「そもそも」に戻れない
  • 空ける方法は5つ。①すでにある予定の後ろにくっつける ②覚えておくことを外に出す ③入ってくるものを絞る ④大事な判断を朝に置く ⑤自分が決めないことを増やす
  • No.2は社長と現場の翻訳作業で容量を使う。「忙しくないのに疲れる」の正体はこれ

明日からやるなら、ひとつだけ。すでに決まっている予定の後ろに、後回しにしていることをくっつけてみてください。

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