この記事には広告(PR)を含みます。
「夕方になると、大したことでもないのに決められなくなる」
そんな日はありませんか。
朝は次々とさばけていたのに、夕方には「明日の会議、何時からにするか」すら決めきれない。体は疲れていないのに、頭だけが動かない。
これは根性の問題ではありません。脳の側の容量の問題です。
この記事では「脳のリソース」という言葉の意味を整理したうえで、それが減っているときのサインと、空けるための具体的な方法をまとめます。
脳のリソースとは——ひとことで言うと
脳のリソースとは、判断したり考えたりするときに使える、脳の容量のことです。
「頭のリソース」も同じ意味で使われます。どちらも正式な専門用語ではなく、心理学や脳科学でいうワーキングメモリ(作業記憶)や認知資源を、日常の言葉に置きかえた言い方です。
ポイントは3つです。
- 有限である:一度に扱える量には限りがある
- 減る:使えば減る。戻り方は人それぞれで、休めば元通りとは限りません
- 奪い合いになる:小さな判断に使えば、大きな判断に回す分が減る
だから「脳のリソースを空ける」とは、大事な判断のために容量を残しておくという意味になります。
「リソースを割く」の「リソース」とは違うのか
ここで一度整理しておきます。ビジネスの場で「リソース」と言うとき、多くは経営資源を指します。ヒト・モノ・カネ、それに情報や時間です。「この案件にリソースを割く」と言えば、人や予算を回すという意味です。
「脳のリソース」は、その使い方を自分の頭の中に持ち込んだ言い方です。
| 経営資源のリソース | 脳のリソース(頭のリソース) | |
|---|---|---|
| 指すもの | ヒト・モノ・カネ・情報・時間 | 判断や思考に使える脳の容量 |
| 誰のものか | 会社のもの | 自分のもの |
| 答えている問い | 何にどれだけ投入するか | 何を自分で決めるか |
| 減る原因 | 使った分だけ減る | 小さな判断・気がかり・情報量 |
| 増やし方 | 採用・投資・外注 | 増やすより「空ける」 |
いちばん大きな違いは最後の行です。経営資源は増やせます。人を採り、投資をすればいい。でも脳のリソースは、増やすより空けるほうが現実的です。
会社のリソース配分の話はこちらで整理しています。
なぜ有限なのか——ワーキングメモリの話
脳のリソースが有限だと言える根拠は、ワーキングメモリの研究にあります。
ワーキングメモリは、一時的に情報を置いて、それを使って考えるための作業台のようなものです。電話番号を聞いてメモするまで覚えておく、相手の話を聞きながら返事を考える。あれがワーキングメモリの仕事です。
そしてこの作業台は、思っているよりずっと狭いことがわかっています。
- 心理学者のジョージ・ミラーは1956年、人が一度に扱える情報のかたまりは7±2個だと示しました
- その後ネルソン・コーワンは2001年、より厳密に測ると4±1個だと報告しています
4つです。指の数より少ない。

「あとで折り返さないと」「この見積、金額が合ってない気がする」「明日の会議は何時からにするか」「さっきの社長のひとこと、どういう意味だろう」——この4つを頭に置いたまま会議に出れば、作業台はもう埋まっています。人の話が入ってこないのは、当たり前なのです。
「1日に35,000回の意思決定」という話について
この話題では、「人は1日に35,000回の意思決定をしている」という数字がよく出てきます。「スタンフォード大学の研究によれば」と添えられていることも多いです。
ただ、この数字には研究の裏づけがありません。
出どころをたどると、2016年に新聞のコラムで使われたのが広まりのきっかけで、元になる研究が見つかりません。よく引用元とされる本を調べても、その記述は確認できませんでした。実際に数えた研究としては、食事に関する判断で1日226.7回という数字があります。
数字はあてになりませんが、話の筋は変わりません。小さな判断の積み重ねで頭が消耗するという実感のほうは、多くの人が持っているものです。この記事では、数字ではなく作業台の狭さの話として進めます。
リソースが減っているときのサイン
脳のリソースは目に見えません。減っていることに気づかないまま、大事な判断をしてしまうのが困りものです。
サインは、だいたいこの形で出ます。
| 残っているとき | 減っているとき |
|---|---|
| 迷っても決められる | 「また明日」で先送りする |
| 反対意見を聞ける | 反論が面倒に感じる |
| 相手の言い方の裏を読む | 言葉どおりにしか受け取れない |
| 選択肢を3つ出せる | 出てきた1つに乗る |
| 「そもそも何のためか」と戻れる | 目の前の話だけで判断する |
| 断るときに理由を添えられる | 全部引き受ける、または全部断る |
右側が並んだ日は、判断の質が落ちています。
特に危ないのは「出てきた1つに乗る」です。これは決めているように見えて、実は決めていません。考える余裕がないから、最初に出た案をそのまま通しているだけです。
脳のリソースを空ける5つの方法
順番に意味があります。①〜③は「判断の数そのものを減らす」話。④は「残った分を、どこに使うか」の話。そして⑤がいちばん根っこで、「決める人を増やす」話です。
1. 決めることを減らす——すでにある予定の後ろにくっつける
毎日・毎週同じ時間に同じことをすると、そのつど決める必要がなくなります。
有名な例では、アップルのスティーブ・ジョブズがいつも同じ服を着ていた話があります。オバマ元大統領は、スーツの色を2種類に絞っていた理由を「決めることを減らしたいから」と語っています。服を選ぶ判断を、そもそも発生させない形です。
わたしがセブン-イレブンで店舗を見ていたころは、こんな形で動いていました。
- 月曜:早朝勤務が明けたあとに、次週の商品情報に目を通す
- 火曜:夕方に、値札の漏れをチェックする
- 木曜:屋外の作業が終わったあとに、駐車場の草むしり
わたしはこれを大人の時間割と呼んでいます。子どものころの時間割と同じで、その時間にやることが決まっていれば、迷う場面が消えます。
並べてみると、ひとつ共通点があります。どれも「すでに決まっている予定の後ろ」にくっついていることです。
「早朝勤務の後」「屋外作業の後」。この形にすると、いつやるかを決める必要がなくなります。前の予定が終わった時点で、次にやることが自動的に決まるからです。
これがけっこう大事で、自分で「今週はいつ商品情報を見ようか」と考えはじめると、それ自体が判断になります。しかもこういう「急ぎではないけれど大事なこと」は、判断にかけるたびに後ろへずれていきます。
草むしりも同じです。屋外の作業の後ろに置いてあるので、「今日はやめておこうか」と考える場面が、そもそも来ません。
あなたの会社でも、まず探すのはすでに固定されている予定です。週次の朝礼、月初の締め、定例会議。その前後に、後回しになりがちなことをくっつけてしまう。新しく時間を作るより、ずっと続きます。
2. 覚えておくことを、外に出す
覚えておかなければならないことが多い状態は、作業台の上に荷物が置いてあるのと同じです。作業する場所が、その分だけ狭くなります。
「あとで社長に言わないと」「あの見積、確認しないと」。これを頭の中に置いている間、そのぶんの容量がずっと使われています。
やることは単純で、頭の外に出すことです。
- やることは全部書き出す(紙でもメモアプリでもかまいません)
- 稟議や相談の窓口をひとつに決める(チャットのこのチャンネル、というように)
- 事業にかかわる会話はグループチャットでして、議事録の代わりにする
3つめは、わたしが実際にやっていた方法です。あとから「あれ、どう決まったんだっけ」と思い出す作業そのものが消えます。
ただ、ひとつ困ることがありました。わざわざ個別のチャットに切り替えて話してくる人がいるのです。
これをやられると、せっかく外に出したはずの記憶が、自分の頭に戻ってきます。個別のやりとりは他の人に見えないので、決まったことを自分が覚えておいて、あとで共有しなければならない。仕組みはあるのに、自分の作業台だけが埋まっていく。
悪気はないのだと思います。全員に見られる場所には書きにくい、という気持ちもわかります。
それでも事業の話はグループに戻したほうがいいので、わたしは「それ、グループにも書いておいてもらえますか」と返していました。それで直る人もいます。
ただ、それでもダメな人はいます。そのときは諦めていました。全員に守らせようとすると、今度はそれを気にすることが新しい気がかりになるからです。仕組みは、守る人の分だけ効けば十分だと思っています。
大事なのは、忘れてもいい状態を作ることです。忘れないように頑張るのをやめる。
3. 入ってくるものを絞る
スマホの通知、際限なく届くメール、流れ続けるチャット。
「見るか、見ないか」も判断です。1日に何十回も通知が来るなら、何十回も判断していることになります。
- 就業時間外の通知はオフにする
- メールを見る時間を1日2〜3回に決める
- チャットの通知ルールをチームで決める(全員に飛ぶ設定を見直す)
3つめは、自分ひとりでは解決しません。チームで決める話です。夜中に送られたメッセージに反応してしまう人が1人いると、全員がそうなっていきます。
ただし、自分の通知を切るだけだと現場が止まります。切る前に決めておくことは、後ろの「気をつけたいこと」でまとめます。
4. 大事な判断を、残っている時間に置く
朝のほうが決めやすくて、夕方になると判断が雑になる。この感覚は、多くの人が持っているものです。なら、大事な判断を朝に寄せるほうが合理的です。
- 重い判断・お金の判断は午前に
- 夕方は、決める会議より報告を聞く時間に
- どうしても夕方に決めなければならないなら、選択肢を3つに絞ってもらってから聞く
最後のひとつは、相手にお願いする形です。「案を3つに絞って、それぞれの一番のリスクを添えて持ってきて」と頼む。判断の前段の作業を、こちらの頭でやらない。
5. 自分が決めないことを増やす
いちばん効くのに、いちばん進まないのがこれです。
判断の数を根本から減らす方法は、自分以外の人が決められる範囲を広げることしかありません。ルーティン化も仕組み化も、自分が決める前提のままでは限界があります。
ただし、任せ方を間違えると逆に増えます。中途半端に任せると、報告を受けて判断し直す仕事が生まれるからです。
No.2の脳のリソースが、特に減りやすい理由
ここはNo.2ならではの話です。
No.2は、社長の言葉と現場の言葉を、頭の中で翻訳しながら仕事をしています。社長の「なんとかしといて」を現場の手順に直し、現場の「できません」を社長に伝わる形に直す。
この翻訳作業が、実はいちばん容量を食います。しかも両方を同時に頭に置いておかないとできません。作業台の上に、社長の意図と現場の事情を並べて置いたまま、一日が終わる。
さらに、プレイングマネージャーとして自分の担当も持っていれば、その分も乗ります。
「忙しくはないのに、なぜか疲れている」という感覚があるなら、たいていこの翻訳作業が原因です。
相手の作業台も、埋まっている
ここまで自分のリソースの話をしてきましたが、同じことが相手にも起きています。
考え事をしているとき、人の話は本当に入ってきません。聞こえてはいるのに、内容が残らない。
わたしは家でもそうです。夫に話しかけようとして、あ、いま別のことに意識がいっているなと感じたら、「やめよう、後にしよう」と思います。同じ話でも、そのタイミングだとちゃんと届かないからです。
これを会社でやると、かなり効きます。
社長に判断を仰ぎにいくとき、社長の作業台が埋まっていれば、どんなにいい案でもまともに扱われません。返ってくるのは「で、結論は?」か、その場の思いつきです。案が悪かったのではなく、置く場所がなかっただけ、ということが起こります。
埋まっているサインは、だいたい見た目に出ます。
- 画面から目を離さない
- こちらの言葉をそのまま繰り返す(「なるほど、値上げね」で止まる)
- 「あとで」「それ急ぐ?」が増える
- 質問が出てこない
このサインが出ていたら、その日は情報だけ置いて帰るほうがいい。「判断してほしいことが1つあります。明日の朝、10分いいですか」で十分です。
ただし、悪い情報はタイミングを選ばない
ここはきっちり分けてください。
悪い情報は、相手の容量を見ずに、すぐ持っていきます。 トラブル、事故、数字の落ち込み。これを「今は機嫌が悪いから」と遅らせるのは、隠すのと同じことになります。相手の容量を待っていいのは、決めてもらうことだけです。
- 報告は速さが優先
- 判断は容量が優先
機嫌を見て報告を遅らせる人は、参謀とは呼ばれません。そのあたりはこちらで書いています。
順番を変えるだけで通る案は、実際にあります。No.2の仕事には、中身を作る力と、置くタイミングを選ぶ力の両方が必要です。
空いてくると、何が変わるか
リソースが空いた状態で仕事をすると、はっきり変わることがあります。
ひとつ上の高さから考えられるようになります。
目の前の判断だけで手一杯のときは、その判断が正しいかどうかしか考えられません。余裕があると、「そもそもこれは何のためだったか」に戻れます。
わたしの口癖は「そもそも」です。会議が煮詰まったときに「そもそも、これって何のためでしたっけ」と聞く。でもこの問いは、自分に余裕がないと出てきません。余裕がないときは、目の前の議題を終わらせることしか考えられないからです。
見える範囲が変わる話は、こちらで詳しく書いています。
気をつけたいこと
ルーティンを増やしすぎると、動けなくなる
時間割は便利ですが、埋めすぎると今度は融通が利かなくなります。急な対応が入るたびに崩れて、崩れたことにストレスを感じるようになります。
埋めるのは、後回しになりがちなことだけで十分です。
通知を切るだけでは、現場が止まる
自分の通知を切ると自分は楽になりますが、連絡がつかない時間帯ができます。そこに急ぎの話が来ると、現場が判断を待って止まります。
切るなら、止まったときにどうするかを先に決めてから切ってください。「この時間は電話ならつながる」「判断はこの人に任せる」まで決めて、はじめて切れます。
「リソースが足りない」を言い訳にしない
「今日は頭が回らないから」で流していい判断と、流してはいけない判断があります。人の評価、お金、辞める・辞めないの話。これは疲れていても、今日決めないと決めたうえで、日を改めて向き合うべきものです。
使い方と例文
社内で使うときの言い方です。
| 言い方 | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 脳のリソースを食う | 考える容量を奪っている | 「この報告フォーマット、脳のリソースを食うから変えましょう」 |
| リソースが空いた | 考える余裕ができた | 「あの件が片づいて、やっとリソースが空きました」 |
| リソースを空けておく | 大事な判断のために残す | 「来週の交渉に向けて、リソースを空けておきます」 |
| リソースを割く | 人や時間を投入する(経営資源) | 「新規事業にリソースを割く」 |
いちばん下だけ、意味が違うことに注意してください。「割く」は経営資源の話です。
読む時間がない、というとき
判断の質を上げたいけれど、本を読む時間まで取れない。これも、脳のリソースの問題です。読書を「机に向かう作業」から外してしまう方法があります。
Audible(オーディブル)なら、車での移動中や皿を洗いながらでも1冊聴けます。目と手が空いていなくても入ってくるので、リソースの取り合いになりません。プレミアムプランは30日間の無料体験から始められます(登録したことがない方が対象です)。
ただし、聴くだけでは残らないという方もいます。その場合は、気になったところだけ後から本で読み直すと定着します。
読むほうが早いという方は、Kindle Unlimited(30日間の無料体験)という手もあります。読み放題なので、合わない本を途中でやめる判断が軽くなります。「この本を読み切らないといけない」という気がかりが消えるぶん、頭の容量も空きます。
よくある質問
脳のリソースと頭のリソースは違いますか
同じ意味で使われています。どちらも正式な専門用語ではなく、ワーキングメモリや認知資源を日常の言葉で言いかえたものです。社内で使うなら、相手が使っているほうに合わせるのが無難です。
ワーキングメモリは鍛えられますか
鍛える方法を扱った研究はありますが、日常の仕事に効くところまで広がるかは、はっきりしていません。仕事の場面では、鍛えるより空けるほうが確実です。作業台を広くするのは難しいけれど、荷物を下ろすのは今日できます。
決断疲れは本当にあるのですか
「決断疲れ(decision fatigue)」という言葉は研究の世界でも使われていますが、その仕組みについては議論が続いています。「意志の力が使うと減る」という説明には、再現性をめぐる異論もあります。
ただ、夕方に判断が雑になる実感そのものは、多くの人が持っているものです。原因を疲れに求めるより、判断の数を減らす・順番を変えるという対処のほうが、確実に効きます。
睡眠や食事で回復しますか
回復の土台が睡眠であることは確かです。ただ、この記事で扱っているのは「どう回復するか」より「そもそも何に使っているか」の話です。回復量を増やすより、消費を減らすほうが早く効きます。
マルチタスクができる人はリソースが多いのですか
同時に複数を処理しているように見える人も、実際には切り替えているだけだと考えられています。そして切り替えのたびに、少しずつ容量を使います。
「あれもこれも見えている人」は、リソースが多いのではなく、見なくていいものを決めていることが多いです。
部下の脳のリソースを空けることはできますか
できます。というより、そこがNo.2の仕事です。
- 判断の基準を先に渡す(毎回聞かなくていい状態にする)
- 報告の形式を固定する(何を書くか迷わせない)
- 相談の窓口をひとつにする(どこに言えばいいか迷わせない)
どれも「決めなくていいことを増やす」やり方です。
まとめ
- 脳のリソースとは、判断したり考えたりするときに使える脳の容量のこと。「頭のリソース」も同じ意味
- 経営資源の「リソースを割く」とは別の話。経営資源は増やせるが、脳のリソースは増やすより空ける
- 根拠はワーキングメモリの狭さ。一度に扱えるのは4個前後(コーワン 2001)
- 「1日35,000回の意思決定」という数字には研究の裏づけがない
- 減っているサインは、出てきた1つに乗る・反論が面倒に感じる・「そもそも」に戻れない
- 空ける方法は5つ。①すでにある予定の後ろにくっつける ②覚えておくことを外に出す ③入ってくるものを絞る ④大事な判断を朝に置く ⑤自分が決めないことを増やす
- No.2は社長と現場の翻訳作業で容量を使う。「忙しくないのに疲れる」の正体はこれ
明日からやるなら、ひとつだけ。すでに決まっている予定の後ろに、後回しにしていることをくっつけてみてください。


コメント