VAKモデルとは——部下に伝わらない原因と3タイプ別の伝え方

No.2の現場術

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「何度同じことを言っても、伝わらない」

そう感じたことはありませんか。

丁寧に説明した。図も見せた。実際にやって見せた。それでもなぜか噛み合わない。話しているあいだ、相手の視線が揺れている。

こういうとき、「この人は理解力が低い」「やる気がない」と結論づけてしまいがちです。でも、原因が伝え方と受け取り方のズレにあることは、けっこうあります。

この記事で紹介するのはVAKモデルという考え方です。ざっくり言うと、「人によって情報の受け取り方に得意なパターンがある」という整理です。

ただ、先にお伝えしておきたいことがあります。このモデルには「タイプに合わせて教えると伸びる」という裏づけがありません。研究でそう結論が出ています。それでもわたしは、この3つの区別を知っておく価値があると思っています。理由は後半でお話しします。

VAKモデルとは——ひとことで言うと

VAKモデルとは、人が情報を受け取るときの得意な入口を、視覚・聴覚・体感の3つで見る考え方です。

NLP(神経言語プログラミング)という分野で使われてきた整理で、頭文字を並べてVAKと呼びます。

タイプ 英語 ひとことで言うと
V(視覚型) Visual 「見て」理解する
A(聴覚型) Auditory 「聞いて」理解する
K(体感型) Kinesthetic 「やって」理解する

実際には「完全にVだけ」「Aだけ」という人は少なく、主タイプ+副タイプの組み合わせで持っているのがほとんどです。「主はV、副はK」という人なら、図で大枠をつかんでからやってみると早い、という具合です。

だから「この人はどのタイプか」と一つに絞るより、何が主で、何が副かを見るほうが実践的です。

3つのタイプのサイン

先に断っておきます。これは診断ではありません。「この人はどの形を好みそうか」の目安です。

このあとタイプ別の見え方と伝え方を書きますが、相手を当てるためではなく、自分の伝え方の引き出しを増やすために読んでください。理由は「研究では、どう言われているのか」でお話しします。

チェックが多いものが主タイプ、次に多いものが副タイプの目安です。同じくらい分散しているなら複合型です。

V(視覚型)のサイン

  • 「見てみると」「イメージとしては」という言葉をよく使う
  • メモを取るより、図やフローチャートを好む
  • 資料やマニュアルをまず見てから動く
  • 整理された見た目の資料に反応がいい
  • 「どんな感じですか」より「どう見えますか」と聞く

A(聴覚型)のサイン

  • 「なるほど」「たしかに」と声に出して反応する
  • 説明を聞きながらうなずき、言葉で確認してくる
  • 「もう一度言ってもらえますか」とよく聞き返す
  • 電話や口頭のやりとりを好む
  • 周囲の音が気になりやすい(と本人が言う)

K(体感型)のサイン

  • 「とりあえずやってみます」と言って動き始める
  • 言葉より、実際にやって覚えるほうが早い
  • 「ピンとこない」「しっくりくる」と感覚で言う
  • 座って聞くより、動きながらのほうが頭に入る
  • 資料を読むより、現場で覚えたほうが定着する

職場での見え方

ここから書くのは「そういう傾向が出やすい」という程度の話です。当てはまらない人もいます。

V(視覚型)——「見える化」がないと動けない

情報を視覚的に整理して理解します。頭の中でイメージを作りながら考えるタイプです。

  • マニュアルや図解があると安心して動ける
  • 口頭だけだと「どういうことですか」で止まりやすい
  • 資料の見た目が雑だと、内容より前に引っかかる
  • 可視化されたツールを好む

A(聴覚型)——「言葉」で理解する

言葉とリズムで情報を処理します。話を聞きながら頭を整理するのが得意です。

  • 口頭説明がいちばん入りやすい
  • 「つまりどういうことか」と言語化して確認してくる
  • 文章やメールのニュアンスに敏感
  • ざわついた環境だと集中しにくいことがある

K(体感型)——「やってみて」わかる

実際に体を動かしながら学びます。頭で理解するより、体で覚えるほうが早い。

  • 説明の途中で「やってみていいですか」と動き出す
  • 机上の研修より現場のほうが吸収が速い
  • 感覚的に「なんかちがう」と感じ取る
  • 失敗しながら覚えるスタイルが合っている

伝わっていないサインは、目に出る

タイプの話をする前に、もっと手前の話をさせてください。

伝わっていないとき、相手の視線が揺れます。

わたしが説明していて「あ、これは入っていないな」と気づくのは、だいたいここです。視線が定まらない。それがいちばん分かりやすいサインです。

もうひとつ、眉をひそめるのもサインです。ただしこちらは意味が違います。視線が揺れるのは届いていないとき、眉をひそめるのは届いたけれど引っかかっているとき。前者は形を変える、後者は止めて聞く、という対処になります。

言葉のほうは、あてになりません。「わかった?」と聞けば、たいてい「わかりました」と返ってくるものです。

ほかにも、こういうサインがよく挙げられます。

サイン 起きていること どうするか
視線が揺れる 入っていない。処理が追いついていないことが多い 説明を止めて、形を変える
眉をひそめる 引っかかっている。納得していない そこで止めて、何が気になったか聞く
同じ質問を少し形を変えて繰り返す 説明の前提が共有できていない 前提から言い直す
メモを取る手が止まる どこが大事か分からなくなっている どこが要点かを先に言う
「やってみます」だけで質問がない 分からないことが分かっていない 小さくやらせて、詰まる場所を見る

大事なのは、このサインが出た時点で、説明の続きをしても無駄だということです。続けるより、止めて形を変えたほうが早い。

もうひとつ。視線が揺れる理由は、伝え方ではなくその日の容量かもしれません。相手の頭がすでに埋まっていれば、どの形で伝えても入りません。そこは脳のリソースとは——意味と、頭の容量を空ける5つの方法に書いています。

ひとつ補足します。「目の動きでその人のタイプが分かる」という話(アイ・アクセシング・キュー)もありますが、これも裏づけは弱いとされています。わたしが目を見ているのは、タイプを当てるためではなく、入っているかどうかを見るためです。そこは分けて考えてください。

その「形を変える」ときの引き出しが、次の3つです。

タイプ別の伝え方

V(視覚型)の部下に伝えるとき

効くこと:話すだけでなく、書いて見せる。図にする。手順書を用意する。ホワイトボードを使いながら説明する。チャットで送るときは整理した形にする。

やりがちなミス:口頭だけで説明して「わかった?」と確認するパターン。Vタイプは見えていない状態では処理しきれないことがあります。「とりあえず話す」より「まず書いてから話す」の順番です。

A(聴覚型)の部下に伝えるとき

効くこと:口で説明したうえで、「つまりこういうことだよね」と一緒に言葉にする。1対1で話す場をつくる。チャットより電話のほうが伝わることがある。説明の後に「自分の言葉で言ってみて」と返してもらう。

やりがちなミス:資料だけ渡して「読んでおいて」で終わらせるパターン。Aタイプは誰かと話すことで整理されます。渡した後に一言話す場をつくるだけで変わります。

K(体感型)の部下に伝えるとき

効くこと:説明を短めにして、早めにやらせる。隣でやって見せてから本人にやらせる。「小さくやってみて、どうだった?」を繰り返す。動きながら話せる場をつくる。

やりがちなミス:長い座学やマニュアルの読み込みを先にやらせるパターン。Kタイプは、まずやってみるほうが入ります。完璧な準備より、早い実践と振り返りです。

わたしは、ぜんぶ「見せる」で教えていた

ここで、自分のことを書きます。

セブン-イレブンで店舗を見ていたころ、新人に売り場の作り方を教える仕事がありました。セブンには売り場づくりのルールがある程度決まっているので、まずそれを伝えます。そのうえで、おにぎりのように動きの速い売り場で、やって見せることが多かったです。

いま思えば、わたしの教え方はここに寄っていました。

  • ルールを伝える(言葉)
  • やって見せる(見せる)
  • 説明するときは紙に図を書くか、実物を見せる

そして、自分が何かを教わるときにいちばん楽なのは、マニュアルを読むことです。

並べてみて気づきました。教えるときも教わるときも、ぜんぶ「見る」に寄っているのです。やって見せるのも、図も、実物も、マニュアルも、全部目から入る形です。

わたしは主V・副Aです。だからこれは自然なことでした。でも裏を返すと、「本人にやらせる」という形は、自然には出てこないということです。体で覚えるほうが早い人には、見ているだけの時間は退屈かもしれません。意識して足さないと、自分の得意な形だけで終わります。

人は無意識に、自分が理解しやすい方法で教えようとします。Vタイプの上司は図を多用する。Aタイプの上司は口で説明したがる。Kタイプの上司は「まずやってみろ」と言いがちです。

あなたの教え方は、どこに寄っていますか。

研究では、どう言われているのか

さて、ここが大事なところです。

VAKのような「学習タイプ」の考え方は、少なくとも「タイプに合わせて教えれば伸びる」という部分については、研究の世界で否定的に見られています。

2008年、心理学者のパシュラーらが、このテーマの研究を70本以上まとめて検証しました。調べたのは「学習者のタイプに合わせて教え方を変えると、学習の成果が上がるのか」という点です。

結論は、その裏づけは見つからなかったというものでした。中には、逆の結果が出た研究もありました。

もう少し細かく分けると、こうなります。

言われていること 研究での扱い
人には「自分はこの形が得意」という好みがある 好みそのものは、実際にある
脳に視覚・聴覚・体感の別々の処理チャンネルがある 支持されていない
好みに合わせて教えると成績が上がる 裏づけがない(パシュラーら 2008)

つまり、「この部下はKタイプだから、体で覚えさせれば伸びる」という使い方は、期待できないということです。

ただ、前半に書いたタイプ別の伝え方が無駄になるわけではありません。あれは相手を当てるための診断ではなく、伝え方の引き出しのリストです。引き出しが増えること自体は、どの研究も否定していません。

だから、当てるより「重ねる」

ではVAKは役に立たないのか。わたしはそうは思いません。使い道を変えればいいと思っています。

診断の道具としてではなく、自分の伝え方が1つに偏っていないかを点検する道具として使う。これなら、研究が否定していることとぶつかりません。

そして実際に効くのは、タイプを当てることではなく、同じことを複数の形で重ねることです。

  • 言う:何をするのか、なぜそうするのかを言葉で伝える
  • 見せる:やって見せる。図や実物を見せる
  • やらせる:本人にやらせて、そのあとで振り返る

3つ重ねれば、相手のタイプを当てなくても、どれかは届きます。しかも、どれか1つだけより残ります。

わたしの教え方を並べてみると、①と②は自然に出ていました。③は、意識して足さないと出てきません。そして現場でいちばん後回しになるのも、ここです。やって見せたところで、次の時間が来てしまう。忙しい日ほど、そうなります。

順番も大事です。言う → 見せる → やらせる → 振り返る。最後の振り返りが、いちばん飛ばされます。

タイプを当てるより、3つ重ねる
どれか1つだけだと、届かない人が出ます。重ねれば、どれかが届きます。

気をつけたいこと

人にラベルを貼らない

いちばん危ないのがこれです。

「あの人はKだから、資料を渡しても読まない」——こう決めつけた瞬間に、観察が止まります。タイプは、その人の全部ではありません。仕事の内容、慣れ、体調、相手との関係で、受け取り方は変わります。

診断ではなく観察の道具、というのはそういう意味です。

本人に「あなたはKタイプだね」と言わない

言われた側は、たいてい嬉しくありません。決めつけられた感じがするからです。

タイプの話は、自分の伝え方を変えるために使うもので、相手に伝えるものではありません。

3つ重ねるのは、手間がかかる

正直に書きます。言って、見せて、やらせて、振り返る。これは時間がかかります。

だから全部の仕事でやる必要はありません。繰り返し発生する仕事と、間違うと痛い仕事だけで十分です。一度やっておけば、あとが楽になるものを選んでください。

耳から入れる、という選択肢

聴覚型(A)の傾向がある方は、文字を追うより、聴いたほうが頭に残ることがあります。これは部下の話だけではなく、自分の学び方にも当てはまります。

「本を読む時間が取れない」という方は、耳から入れる手もあります。Audible(オーディブル)は、移動中や家事のあいだに1冊を聴き終えられます。プレミアムプランには30日間の無料体験があり、登録したことがない方が対象です。

視覚型(V)の方には向かないこともあります。わたしはマニュアルを読むほうが楽なので、正直そちらの気持ちも分かります。自分がどのタイプかを考えてから試すほうが、無駄になりません。

読むほうが楽だという方は、Kindle Unlimited(30日間の無料体験)のほうが合うかもしれません。ビジネス書もそれなりに入っていて、読み放題なので「合わなければやめる」がしやすいです。ちなみに、わたしの本もこの対象に入っています。

よくある質問

自分のタイプはどうやって調べますか

上のチェックリストで、自分に当てはまるものを数えるのがいちばん手軽です。もうひとつの見分け方は、人に何かを説明するとき、無意識に何をするかです。紙に図を書くならV、しゃべって確認するならA、やって見せるならKの傾向があります。

VAKと「学習スタイル」は同じものですか

VAKは学習スタイル論のひとつです。ほかにもいろいろな分類がありますが、「タイプに合わせて教えると伸びる」という部分に裏づけがない、という指摘は、多くの分類に共通して出されています。

裏づけがないなら、知っておく意味はありますか

あると思います。意味があるのは「相手を分類する」ことではなく、自分の伝え方が1つに偏っていると気づくことです。偏りに気づけば、足りない形を足せます。それだけで「伝わらない」が減ります。

部下のタイプが分からないときは

分からないままで進めて大丈夫です。むしろ、分からないときこそ言う・見せる・やらせるを重ねるほうが確実です。当てにいく必要はありません。

相手が「わかりました」と言うのに、できていないのは

「わかりました」は、たいてい話が終わったことへの返事です。理解の確認にはなりません。確認したいなら、自分の言葉で言ってもらうか、その場で少しやってもらうのが早いです。

自分と同じタイプの部下なら、うまくいきますか

伝わりやすいのは確かです。ただ、同じタイプだと同じところが見えていないことがあります。わたしのように「見る」に寄った人同士だと、体で覚える工程が2人とも抜けたままになる、といったことが起きます。

まとめ

  • VAKモデルとは、情報を受け取るときの得意な入口を、視覚・聴覚・体感の3つで見る考え方
  • 実際は主タイプ+副タイプの組み合わせ。1つに絞らず、何が主で何が副かを見る
  • 研究では「タイプに合わせて教えると伸びる」という裏づけは見つかっていない(パシュラーら 2008・70本以上を検証)
  • だから診断ではなく、自分の伝え方が偏っていないかを点検する道具として使う
  • 伝わっていないサインは目に出る。視線が揺れたら、説明を続けずに形を変える。眉をひそめたら、止めて何が気になったかを聞く
  • 効くのは当てることより重ねること。言う → 見せる → やらせる → 振り返る
  • 人は自分が理解しやすい方法で教えようとする。わたしは教えるときも教わるときも「見る」に寄っていた
  • 人にラベルを貼らない。タイプは相手に言わず、自分の伝え方を変えるために使う

「伝わらない」は能力の問題ではなく、形のズレです。次に部下の視線が揺れたら、同じ説明を繰り返す代わりに、形をひとつ足してみてください。

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